AI気象モデルの台頭と従来モデルの優位性

人工知能(AI)を活用した気象予測モデルは、これまでの物理ベースの気候モデルを上回る性能を示す分野があった。しかし、米科学誌「Science Advances」に発表された最新研究によると、AIモデルは記録的な異常気象の再現において依然として従来型モデルに劣ることが明らかになった。

研究チームは、2018年と2020年に観測された数千件の記録的な猛暑、寒波、強風イベントを対象に、AIモデルと従来型モデルの性能を比較した。その結果、AIモデルは記録的なイベントの頻度と強度を共に過小評価する傾向が確認された。

研究著者の一人で、ジュネーブ大学の統計・情報科学研究所教授であるSebastian Engelke氏は、Carbon Briefに対し、この分析結果は「AIモデルを安易に従来型モデルに置き換えることへの警告」であると述べる。

異常気象がもたらす甚大な被害と早期警戒システム

洪水、熱波、嵐などの異常気象は毎年数千億ドル規模の被害をもたらし、農地の破壊、インフラへの影響、人的被害を引き起こす。多くの政府は、こうした災害に備えるための早期警戒システムを整備しており、被害の最小化と人命救助に貢献している。

数十年にわたり、科学者たちは数値天気予報モデルを用いて、数日から数週間先の気象をシミュレーションしてきた。これらのモデルは、大気や海洋のプロセスを再現する複雑な方程式に基づいており、気候科学者による数十年に及ぶ研究成果に根ざしている。そのため、これらは「物理ベースモデル」と呼ばれている。

AIモデルのメリットと限界

一方で、AIを活用した気象予測モデルが注目を集めている。AIモデルは、物理法則に依存するのではなく、統計的手法を用いる。具体的には、科学者が大量の過去の気象データ(学習データ)をAIモデルに与え、パターンを認識させることで予測を行う仕組みだ。新たな予測を行う際には、AIモデルはこの学習データに基づく既知のパターンを活用する。

AIモデルの利点として、物理ベースモデルと比較して計算処理能力が少なくて済む点が挙げられる。物理ベースモデルは数千もの数学的方程式を解く必要があるが、AIモデルはその必要がないためだ。また、多くのAIモデルは従来型モデルよりも高い予測精度を示すことも報告されている。

しかし、AIモデルには課題も存在する。Engelke氏は、AIモデルが「学習データに強く依存しており、そのデータの範囲内に制約されている」と指摘する。つまり、AIモデルは過去に経験したことのない新しい気象パターンのシミュレーションが苦手であり、過去に観測されたイベントと同程度の強度の予測にとどまる傾向があるという。

このため、気候変動の影響でますます頻発・激化する記録的な異常気象のシミュレーションにおいて、AIモデルがどこまで対応できるかは不透明だ。記録的な異常気象は、定義上、これまでに経験したことのない規模の現象であるため、AIモデルの学習データに含まれていない可能性が高い。

気候変動がもたらす記録的な異常気象の増加

気候変動の進行に伴い、異常気象はますます激甚化・頻発化している。特に、既存の記録を大幅に上回る「記録破りの異常気象」の発生が懸念されている。こうした現象は、社会インフラや経済、人命に壊滅的な影響を及ぼす可能性があり、その正確な予測と早期警戒が求められている。

研究チームは、AIモデルの限界を踏まえ、従来型の物理ベースモデルとの併用や、AIモデルのさらなる改良が必要であると提言している。気象予測の精度向上は、災害リスクの軽減と人命保護に直結する重要な課題だ。