欧州を中心に、企業に対し賃金バンドの開示や格差の正当化を義務付ける法規制が広がっている。基本給の透明化は長年の不平等に対する必要な一歩だが、それだけでは見過ごされる重大な問題が存在する。それが「ボーナス格差」だ。
ボーナスは単なる副次的な報酬ではない。多くの職種で総報酬に占める割合は大きく、しかもその分配には裁量の余地が多く、バイアスが入り込むリスクが高い。筆者が初めて経験したインターンシップでは、同じ役割で同じ期間勤務した男性インターンの方が高いボーナスを受けていた。その理由は曖昧で、変動報酬の実態に触れた瞬間だった。
賃金格差を解消するには、基本給だけでなくボーナスの分配構造そのものを見直す必要がある。そのためには、機会の配分と曖昧な評価基準という二つの問題に取り組まなければならない。
1. 結果ではなく機会の配分を監査せよ
多くの企業はボーナスの格差を「誰がいくら稼いだか」という結果で測る。しかし、不平等はそれよりずっと前の段階で生まれている。特に成果主義の職種では、ボーナスは「機会へのアクセス」に大きく左右される。重要顧客の担当、成長市場への配属、既存顧客との関係継承といった機会は、非公式なネットワークや上司の信頼、いわゆる「フィット感」によって決まることが多い。その結果、既存のメンバーと似た属性を持つ社員に偏ってしまう傾向がある。
筆者がITサービスの営業職として働いた際、与えられた顧客リストは「残余物」ばかりだった。小規模な案件、断られたリード、すでに拒否された企業ばかりで、年間目標を達成できるはずもなかった。年間を通して基本給のみで、ボーナスはゼロ。この経験が、不平等が電話をかける前から始まっていることを教えてくれた。
ボーナス格差を解消するには、機会の配分を可視化しなければならない。誰が有望な顧客を担当しているのか?誰が成長市場に配属されているのか?誰が既存の顧客関係を引き継いでいるのか?企業は、個人のパフォーマンスではなく、割り当てられたポートフォリオの収益ポテンシャルを追跡すべきだ。そして、性別やその他の属性ごとに配分を比較し、格差を重大な問題として扱う必要がある。機会への平等なアクセスなくして、公平な報酬は存在しない。
2. ボーナスの基準を明確化せよ
基本給は通常、構造化された給与バンドで管理されるが、ボーナスの基準はしばしば曖昧だ。「パフォーマンス」「インパクト」「リーダーシップ」「ポテンシャル」といった言葉が使われるが、実態は個人の解釈に委ねられている。評価基準が曖昧なほど、評価者はメンタルモデルやステレオタイプ、親近性バイアスに頼りがちになる。つまり、システムが非公式であればあるほど、バイアスが入り込む余地は大きくなる。
具体的な対策として、以下のような基準の明確化が求められる。
- 定量的な指標の導入:売上高、顧客獲得数、プロジェクト完遂率など、具体的な数値目標を設定する。
- 評価プロセスの透明化:誰がどの基準で評価したのか、そのプロセスを記録し公開する。
- 複数の評価者によるチェック:単一の上司による主観的評価を避け、複数の視点からのフィードバックを取り入れる。
- バイアスを排除するトレーニング:評価者に対し、無意識の偏見に関する教育を実施する。