世界保健機関(WHO)によると、抗生物質耐性は年間数百万人の死に関わる深刻な脅威となっている。その主な要因は、病院や畜産業における抗生物質の過剰使用とされてきたが、最新の研究により、干ばつといった自然現象も耐性拡大に関与している可能性が示された。
干ばつが抗生物質を濃縮し耐性を促進
カリフォルニア工科大学(Caltech)のXiaoyu Shan研究員らが発表した研究によると、土壌中の微生物は自然に抗生物質を生産し、他の微生物との競争に利用している。しかし、干ばつにより土壌が乾燥すると、抗生物質が水分によって希釈されなくなり、濃度が上昇する。この濃縮により、感受性のある微生物は死滅し、耐性を持つ微生物のみが生き残る。その結果、新たな耐性遺伝子の獲得が促進されるというメカニズムが明らかになった。
研究チームは、湿潤状態から乾燥状態へと移行する土壌サンプルを用いて実験を行った。その結果、土壌の乾燥に伴い、抗生物質生産および耐性に関連する遺伝子の存在が急増することが確認された。これは、干ばつが地下の「生物学的軍拡競争」を加速させる可能性を示唆している。
CaltechのDianne Newman教授は「干ばつは抗生物質生産者と耐性菌の両方を増加させる。環境中の抗生物質が増えれば、それに耐えられる微生物だけが生き残る」と説明する。
代替要因の可能性と研究の限界
一方で、スペイン・サラマンカ大学のEnrique Monte博士は、干ばつによる遺伝子増加には他の要因も考えられると指摘する。例えば、乾燥土壌は湿潤土壌よりも微生物の多様性が高く、その結果として遺伝子プールも多様化する可能性がある。また、抗生物質の中には揮発性のものもあり、環境中に放出されても治療濃度に達しない場合もあるという。
研究チームは、この遺伝子増加が環境ストレスへの生物学的反応であることを裏付けるため、乾燥ストレスに影響されない基本的な生存遺伝子や、乾燥により減少する移動関連遺伝子を追跡した。その結果、予測通り、生存に必須な遺伝子は安定していた一方、移動に関わる遺伝子は乾燥土壌で減少していた。さらに、干ばつの影響を受けにくい種であっても、耐性関連遺伝子が増加するケースが確認された。
研究者らは、この現象が病原菌特有のものではなく、あらゆる微生物に見られる耐性遺伝子の拡散に関与している点に注意を促している。今後、このメカニズムが抗生物質耐性の拡大にどの程度寄与しているのか、さらなる研究が必要とされている。