米連邦取引委員会(FTC)は、5月19日から「Take It Down Act(削除要請法)」の主要条項の執行を開始する。同法は、被害者からの通報後48時間以内に非合意のディープフェイクメディアを削除しないオンラインサービス事業者に対し、罰金やFTCによる調査を科すことを定めている。
同法は昨年、議会で可決されたもので、当初は違法なディープフェイク動画の作成・投稿者に対する即時の法的措置が主眼だった。しかし、プラットフォーム側には1年間の猶予期間が与えられ、報告・削除システムの整備が求められていた。
今回の執行開始により、通報から48時間以内に該当コンテンツを削除しない事業者には、1件あたり最大53,088ドル(約800万円)の民事罰が科される可能性がある。FTCのアンドリュー・ファーガソン委員長は先週、民間企業向けに送付した書簡で、同法の遵守状況をどのように監視するかの方針を明らかにした。
ファーガソン委員長は声明で、「特に子どもを保護するため、この有害な悪用から脆弱な人々を守ることが、当委員会と政府の最優先事項だ」と述べた。書簡では、違反の対象となるコンテンツとして、実在の人物の写真を無断で使用した非合意の性的画像だけでなく、AIによって生成・改ざんされた「デジタル偽造」も含まれるとしている。
また、事業者には以下の義務が課される:
- 被害者がアカウントを持たない場合でも、簡単に削除要請を提出できる仕組みの整備
- ウェブサイト上で削除・報告プログラムの詳細を「平易な言葉で」説明
- ユーザーに対し、削除要請の方法を「明確かつ目立つ形で」通知
FTCによると、同法の対象はウェブサイト、アプリ、SNS、画像・動画共有サービス、ゲームプラットフォームなど多岐にわたる。ファーガソン委員長は、Amazon、Alphabet、Apple、Meta、Microsoft、TikTok、X(旧Twitter)など、主要なテック・ソーシャルメディア企業に書簡を送付した。
今年初めには、XのAIサービス「Grok」が、実在の人物を無断で性的なディープフェイク画像化し、同プラットフォームに氾濫させる事態が発生。Xの所有者であるイーロン・マスク氏は当初、批判を一蹴したが、その後、複数の刑事・民事捜査の対象となり、さらには世界各国の指導者からアプリの全面禁止を求める声が上がった。
FTCはまた、事業者に対し、削除済みの性的画像の再掲載を防ぐための「ハッシュ技術の導入」と、削除済みコンテンツの再出現を追跡するための非営利団体(National Center for Missing and Exploited Children、StopNCII.orgなど)との情報共有を推奨している。
シンクタンク「Center for Democracy and Technology」の表現の自由プロジェクトディレクター、ベッカ・ブラナム氏は、FTCの方針のうち、被害者にとって明確で簡単な報告オプションを義務付ける点は、市民団体が提唱するベストプラクティスと一致すると評価している。