動画配信プラットフォームの成功は、かつて「顧客獲得数」という指標で測られていた。ウォール街は無条件の加入者増加を求め、プラットフォームはそれを実現すべくグローバル規模で急成長を遂げた。しかし、加入者数が数億規模に達すると、事業の根本的な計算式が変わった。
かつては些細な解約率の上昇も、今では数百億円規模の損失に直結する。主要な配信プラットフォームで解約率がわずかに上昇するだけで、将来的な収益の目減りという形で損失が顕在化する。パロット・アナリティクスの「ストリーミング経済モデル」によると、主要なグローバル配信プラットフォームは2025年に解約により6兆3000億円の損失を被ったと推計されている。
ライブスポーツは、この数兆円規模の損失を抑える一助となる可能性がある。そのため、各プラットフォームはスポーツコンテンツへの投資を加速させている。これは理にかなった戦略だ。スポーツは依然として、大規模な顧客獲得を保証する最後の文化的モニュメントだからだ。しかし、ライブスポーツを万能薬と見なすのは間違いだ。
ライブスポーツは「消耗性資産」に過ぎない
ライブスポーツは、試合開催中の3時間だけ世界の注目を集める。しかし、放送が終わればその価値はゼロに戻る。プラットフォームがこの高額な Weekend 視聴者を長期的な加入者に転換したいのであれば、権利を購入するだけでは不十分だ。365日体制のエコシステムを構築する必要がある。
その先駆的な取り組みが、Netflixによる NFL 中継権の獲得だ。同社は単に放映権を手に入れたわけではない。NFL ファンを維持するための「リテンションインフラ」を構築したのだ。
Netflixの「肩書きコンテンツ」戦略
NFL シーズンが終わっても、ファンの関心を維持するために、Netflixは「肩書きコンテンツ」と呼ばれる戦略を採用した。例えば「Quarterback」「Receiver」「America’s Sweethearts: Dallas Cowboys Cheerleaders」などの番組がそれだ。これらの番組は、試合がないオフシーズンでもファンをプラットフォームに引き留める役割を果たす。
当社の分析によると、これら NFL 関連の肩書きコンテンツは、四半期ごとに約50万人の加入者を維持している。アルゴリズムを活性化させ、ファンをプラットフォームに滞在させることで、これらの番組 alone で年間1億ドル以上のグローバルストリーミング収益を生み出しているという。Netflix はさらなるライブ中継の獲得を検討しており、これにより NFL ファン向けのリテンションインフラの重要性はさらに高まる見込みだ。
年間を通したエンゲージメントを実現する WWE
肩書きコンテンツはオフシーズンを埋める優れた橋渡しだが、究極のリテンション資産は「年間を通してオフシーズンがない」コンテンツだ。NFL にリテンションインフラが必要な一方で、プロレスは生まれながらに52週間の習慣ループを提供する。これが、Netflix が WWE Raw の放映権を獲得した10年・50億ドルの取引の背景にある論理だ。
テッド・サランドス CEO は発表時に、「WWE は年間52週間のライブ番組を提供する」と述べた。ストーリーが終わることがないため、このコンテンツは年間を通したリテンションの要となるのだ。これは、Netflix が世界中で毎年125万人の加入者を解約から防いでいると当社モデルで推計されている。
「ライブスポーツは解約防止に貢献するが、それだけでは不十分。年間を通したエンゲージメントを維持するための包括的な戦略が必要だ」