月の裏側で捉えられた意外な発見

太陽系は、光速近くであらゆる方向から飛来する銀河宇宙線(陽子や原子核)に包まれている。地球の磁場と大気はこの有害な放射線の大部分を遮断するが、宇宙空間ではその影響が強く、宇宙飛行士にとって深刻な脅威となる。しかし、中国の月面探査機「嫦娥4号」のデータを分析した最新研究により、地球が予想外の形で宇宙線を遮蔽していることが明らかになった。

地球の「影」が月の放射線量を20%低下させる

独キール大学の宇宙物理学者ロバート・ウィマーシュヴァインガーバー氏らによる研究チームは、米科学誌「Science Advances」に発表した論文で、地球が作る「宇宙線の影」が月の公転軌道まで及んでいることを発見した。月の公転軌道上でこの「影」に入ると、銀河宇宙線のフラックス(流束)が最大で20%減少するという。

「地球が銀河宇宙線の空間に影を落としていることがわかりました。これは予想外の発見であり、この論文の最も興味深い点です」
— ロバート・ウィマーシュヴァインガーバー(独キール大学)

従来の磁気圏モデルを覆す発見

地球の磁場(磁気圏)は、太陽風の影響で彗星の尾のような形状を形成することが知られている。しかし、今回の研究で明らかになったのは、その「磁気圏テール」の前方にも、宇宙線を遮蔽する領域が存在するという点だ。

ウィマーシュヴァインガーバー氏は、この現象を「人の影が太陽光で後方に伸びるように、磁気圏テールも地球の後方に伸びるが、今回発見されたのはその影が前方にも広がり、傾斜している」と説明する。米ワシントン大学セントルイス校の宇宙線物理学者ブライアン・フリント・ラウフ氏(研究には不参加)は、電子メールで次のように述べた。

「太陽風によって圧縮された地球磁気圏の外側に位置する月の公転軌道上で、宇宙線の流束が減少する領域が見つかったことは驚きです。宇宙線への被曝量が減少することは、月面で活動する宇宙飛行士にとって重要な要素です」

嫦娥4号が捉えたデータがもたらしたブレークスルー

中国国家航天局(CNSA)の月面探査機「嫦娥4号」は、2019年1月3日に月の裏側にあるフォン・カルマン・クレーターへの着陸に成功した。同探査機には、ドイツの研究チームが開発した「月面着陸機中性子線・線量計実験(LND)」が搭載されていた。LNDは、月面の放射線環境を詳細に計測する装置で、今回の発見につながる貴重なデータを提供した。

宇宙飛行士の安全確保に向けた新たな知見

月面では、宇宙服は銀河宇宙線から宇宙飛行士を保護することはできない。しかし、金属製の居住施設や着陸船は、ある程度の遮蔽効果を発揮する。今回の発見は、月面活動の際に宇宙飛行士が被曝するリスクを軽減するための重要な手がかりとなる。

ラウフ氏は、20%の宇宙線減少が直ちに安全な活動時間を大幅に延長するわけではないと指摘する。しかし、個々のミッションにおいて、より安全なタイミングを選択する際の判断材料として活用できる可能性があるという。

今後の月探査に与える影響

米国の「アルテミス計画」をはじめとする有人月探査の進展に伴い、宇宙飛行士の放射線被曝管理はますます重要な課題となっている。今回の発見は、月面基地の設計や活動計画の策定に新たな視点をもたらすものだ。

研究チームは、今後さらなるデータ収集と解析を進め、地球の磁気圏が宇宙線を遮蔽するメカニズムの解明を目指すとしている。