氷床モデルにおける「グレンのn値」の役割
氷床は地表を流れる結晶質の氷であり、圧力融解点に近い状態にある。氷の変形挙動は、温度、粒径、純度など複数の要因によって決まる。氷床流動の数値モデルでは、1950年代にジョン・グレンとジョン・ナイによって実験的に導かれた「グレン・ナイ流動則(グレンの法則)」が広く用いられている。
グレンの法則は、氷に加わる応力とひずみ速度の関係を表すもので、ひずみ速度(氷の流動)は応力のn乗に比例する。ここでnは経験的に求められる定数であり、一般的には3が用いられる。しかし、このn値の選択が氷床質量損失の予測に与える影響については、これまで十分に検討されていなかった。
氷床質量損失予測におけるn値の影響
米国の研究チームは、氷床流動モデルを用いて、n値の違いが氷床質量変化の予測に与える影響を分析した。具体的には、n値と氷床の滑り法則、温度依存定数Aの関係を検証した。
その結果、氷床のタイプによってn値の影響が大きく異なることが判明した。動的に制御される氷河では、n値が大きくなるほど氷床の流動が加速し、質量損失が増加した。一方、表面質量収支によって制御される氷河では、n値が大きくなるほど氷の流出が減少し、質量損失が低下した。
予測精度向上に向けた課題
研究チームは、n値を一定値で固定すると、氷床質量損失の予測に大きな不確実性が生じる可能性があると指摘する。このため、将来の氷床変動を正確に予測するには、n値が空間的にどのように変化するかを考慮する必要があるとしている。
研究の意義と今後の展望
この研究は、氷床モデルの不確実性要因の一つとして、グレンのn値の重要性を浮き彫りにした。氷床の流動特性をより正確に把握するためには、n値の空間的な変動をモデルに組み込むことが不可欠だ。今後、氷床質量損失の予測精度向上に向けたさらなる研究が期待される。
「グレンのn値を一定値で扱うことは、氷床質量損失の予測に大きな不確実性をもたらす可能性がある。氷床流動の正確なモデリングには、n値の空間的な変動を考慮することが不可欠だ」
— アン・ローワン(Journal of Geophysical Research: Earth Surface 編集長)
論文情報
- 論文タイトル:Effect of the flow-law exponent on ice-stream sensitivity to melt
- 著者:David A. Lilien, Mukund Ranganathan, Daniel R. Shapero
- 掲載誌:Journal of Geophysical Research: Earth Surface
- 発行年:2026年
- DOI:10.1029/2025JF008726