脊髄損傷後に特定の神経細胞が損傷した脊髄回路を再接続し、歩行に関わる筋肉活動を引き起こす可能性が新研究で明らかになった。この発見は、将来的な幹細胞治療の改良につながる可能性があり、再生医療の新たな展望を開くものだ。
研究の背景と意義
脊髄損傷は、脳と体の他の部位との信号伝達を担う神経束が損傷することで起こり、その結果、筋肉や臓器との通信が遮断される。これにより、多くの場合、永続的な麻痺やその他の重篤な合併症が引き起こされる。
これまで数十年にわたり研究が進められてきたが、現在のところ、脊髄損傷後に失われた神経機能を回復させるFDA承認の治療法は存在しない。米国では数十万人が生涯にわたる障害を抱えているのが現状だ。
科学者たちは長年にわたり、損傷した神経を置き換え、失われた接続を再建するために、神経幹細胞を脊髄に移植する方法を模索してきた。しかし、移植された神経幹細胞から生じた神経細胞のうち、どの細胞が脊髄の歩行回路に接続するのかは明らかにされていなかった。
研究の発見:特定の神経細胞が鍵を握る
テキサスA&M大学の生物学准教授で、今回の研究の責任著者であるJennifer Dulin氏は、次のように説明する。
「電気回路を例に考えてみましょう。片方の端に電池、もう片方に電球があります。その間の配線が切断されると、電球は点灯しません。脊髄損傷は、この回路を断ち切るのです。私たちが取り組んでいるのは、新しい細胞をその間に配置して、経路を再接続し、信号が再び流れるようにすることです」
今回の研究では、動物モデルの損傷した脊髄に神経前駆細胞を移植し、移植された細胞が周囲の神経ネットワークとどのように接続するかを調査した。具体的には、後肢の動きを制御する脊髄運動回路に移植された神経細胞がどのように接続するかを解析した。
その結果、移植された神経細胞のうちごく一部が活性化された際に、動物の後肢の筋肉が反応した。これは、移植された細胞が脊髄の運動回路の一部となったことを示す証拠だ。
また、この重要な役割を果たす介在ニューロンは、移植された細胞集団の中では比較的まれな存在であることも明らかになった。研究では、動物の約20~30%で後肢の筋肉反応が観察されたという。
今後の治療法への応用可能性
Dulin氏は、この結果について次のように述べている。
「これは、歩行に関わる神経回路を再建する可能性が示されたという点で非常に意義深いものです。次に取り組むべきは、なぜ一部の動物は治療に反応し、他の動物は反応しないのかを理解することです」
この発見は、移植される細胞集団にどのような特定の神経細胞を豊富に含めるべきかを明らかにすることで、次世代の再生医療の指針となる可能性がある。
さらに、Dulin氏は、回復過程においてリハビリテーションが重要な役割を果たすと指摘する。移植されたばかりの神経細胞は未熟であり、脊髄の環境に適応する必要があるが、このプロセスは活動に依存するという。
「私たちが行っているのは、いわば新生児の神経細胞を脊髄に移植し、環境に適応させることです。この適応過程を促進するためには、リハビリテーションが不可欠です」
今後の展望
研究チームは、今後、なぜ一部の動物が治療に反応するのか、そのメカニズムを解明することを目指す。また、移植する神経細胞の種類や数、リハビリテーションの方法など、最適な治療プロトコルの開発に向けた研究を進めていくとしている。