2003年1月、ある新聞社で自動車週刊コラムの編集長を務めていた筆者は、急遽の特集記事を求められていた。そこで目にしたのが、ニューヨーク在住の退職教師アーヴ・ゴードンが1966年式ボルボP1800Sを購入し、猛烈なペースで走行を続けていたというプレスリリースだった。
ゴードンは、この車で200万マイル(約320万キロ)を走行した時点で、そのメンテナンス方法を紹介する記事が掲載された。その後、2018年に78歳で亡くなるまでに326万マイル(約525万キロ)を走行し、現在はスウェーデンのボルボミュージアムに展示されている。
アーヴ・ゴードンの驚異的な記録
ゴードンのボルボP1800Sは、1966年に発売されたモデルだが、その耐久性は現代のクルマにも引けを取らない。彼が実践していたメンテナンス方法は、以下の10のポイントにまとめられる。
- 定期的なオイル交換:合成オイルではなく、鉱物油を使用していた。理由は「石油は恐竜の遺産。その命を敬意をもって使う」という彼の哲学によるもの。
- エンジンの過負荷を避ける:アクセルを踏みすぎず、エンジンに優しい運転を心がけた。
- 部品の劣化を常に監視:走行距離が増えるごとに、消耗品の交換を徹底した。
- シンプルな構造を重視:当時のクルマは金属製の部品が多く、修理が容易だった。
- 燃料の品質にこだわる:高品質な燃料を使用し、エンジンのパフォーマンスを維持した。
- 定期的な洗車と防錆処理:錆の発生を防ぐため、常に車体を清潔に保った。
- エンジンルームの清掃:埃や汚れが蓄積しないよう、定期的に掃除を行った。
- 適切なタイヤ管理:タイヤの空気圧と摩耗状態を常にチェックし、交換時期を逃さなかった。
- 運転環境の選択:過酷な環境での走行を避け、クルマに負担をかけないルートを選んだ。
- 愛情をもってメンテナンス:単なる機械ではなく、クルマを「仲間」として扱った。
現代のクルマにも通じる教訓
ゴードンの手法は、現代のクルマにも多くの示唆を与える。例えば、合成オイルの普及により、エンジンの耐久性は飛躍的に向上したが、彼のように「基本に忠実」なメンテナンスこそが、長寿の秘訣と言えるだろう。
また、当時のクルマは金属製の部品が多く、修理が容易だったことも、長寿の一因だった。現代のクルマは電子化が進み、複雑な構造となっているが、その分、定期的な点検とメンテナンスがより重要になっている。
ゴードンとの思い出
筆者は2003年に彼のメンテナンス方法をコラムで紹介したところ、ニューヨークの新聞社「Newsday」でも取り上げられた。その後、ゴードンから直接電話があり、「ランチに行かないか?」と誘われたというエピソードも残っている。彼はニューヨークからロングアイランドの新聞社まで、自らのボルボで走ってやってきたのだ。
「ニューヨークMILNMILR」のナンバープレートが付いたそのクルマは、金属製のボディが印象的だった。当時のクルマは、現代のようなプラスチックや複合材料に頼ることなく、シンプルな構造で作られていた。そのシンプルさが、長寿の秘訣だったのかもしれない。
1960年代のクルマに学ぶべきこと
1960年代のクルマは、現代のクルマと比べて構造がシンプルで、修理が容易だった。また、当時の技術者たちは、クルマを「長く使う」ことを前提に設計していた。そのため、メンテナンスの重要性が今よりも強く意識されていた。
現代のクルマは、技術の進化により快適性や安全性が向上したが、その一方で、複雑化が進んでいる。そのため、定期的なメンテナンスや、適切な運転方法がより一層重要になっている。
アーヴ・ゴードンの物語は、クルマに対する愛情と、基本に忠実なメンテナンスの大切さを教えてくれる。彼のような「クルマとの対話」を大切にする姿勢が、現代のクルマ社会にも求められているのではないだろうか。