ホラーコメディは、恐怖と笑いのバランスを取ることが難しいジャンルだ。真の恐怖を演出しつつ、観客にカタルシスを与えるユーモアも必要とする。名作『 Shaun of the Dead 』はその最高峰といえるが、近年ではそれに匹敵する作品は少なかった。そんな中、新作アップルTVシリーズ「ウィドウズ・ベイ」が、その難しいバランスを完璧に実現している。

「ウィドウズ・ベイ」は、ロシアスパイ役で知られるマシュー・リースが主演を務める。前作『The American』でもスパイ嫌いの主人公を演じたリースだが、今回は呪われたニューイングランドの島町「ウィドウズ・ベイ」の市長、トム・ロフティスを演じる。ロフティスは、この活気のない漁村を「マーサズ・ヴィニヤード」のような高級リゾートへと変貌させようと画策する。しかし、町の住民のほとんどが「ウィドウズ・ベイは呪われている」と信じており、特に不気味な老漁師ワイク(スティーヴン・ルート)はその象徴的存在だ。

呪われた町のリアリティとユーモア

この作品の魅力は、町が本当に呪われているという前提にある。ロフティスの否定は、ますます滑稽に見えてくる。彼は幽霊が出るホテルに滞在し、海の魔女に脅かされるが、その現実を認めようとしない。このギャップがコメディの源泉となり、観客に「この町は本当に呪われているのだ」というリアリティを感じさせる。登場人物たちは、超自然現象の真偽を巡るのではなく、むしろ自らの生活の不条理に反応しているのだ。

最近のエピソードでは、ロフティスはほとんど登場せず、代わりに彼の落ち込んだアシスタント、パトリシア(ケイト・オブライエン)に焦点が当てられる。パトリシアは島で生まれ育ったが、地元の連続殺人犯に唯一生き残ったと主張するなど、あまり好かれていない。ある日、奇妙な自己啓発本を見つけた彼女は、自分が好かれる存在だと証明するためにパーティーを開く。当然ながら事態は悪化し、最終的な reveal シーンで思わず笑ってしまったというエピソードもあった。

細部にこだわる演出が生む笑いと恐怖

この作品の怖いシーンが効果的に機能する理由の一つは、プロップ(小道具)へのこだわりにある。ロフティスが幽霊ホテルに一泊した際、奇妙な卓上ゲームを見つける。一つは「逃げろ!」というカードゲーム、もう一つは「歯」という名前のボードゲームだが、中身はペンチが入っている。同様に、パトリシアの自己啓発本には「自分について好きなことを2つ書け」と書かれており、残りのページは「自分が好きでないこと」を列挙するスペースとなっている。こうした細部へのこだわりが、作品全体のユーモアとリアリティを支えている。

「ウィドウズ・ベイ」は、単なるホラーコメディにとどまらない。呪われた町の不条理な現実を、ユーモアと共に描くことで、観客に新たなエンターテイメントの形を提示している。

出典: Aftermath