ニューヨーク・マンハッタンのソーホー地区にある「ティーン・ストリート」と呼ばれる通り。春の午後、カジュアルなカーディガンやピンクのキャミソール、ローライズジーンズに身を包んだティーン世代の少女たちが、ブランドメルビルやプリンセスポリーなどの店舗を訪れていた。そんな中、2024年5月14日から新たな顔ぶれとして加わったのが、ビクトリアズ・シークレットの下位ブランド「Pink」だ。

同店は、クリエイティブ・ディレクターのアダム・セルマンが手掛けた初の「Pink」専用店舗。同ブランドの新たな方向性を示すだけでなく、若者層(主に18〜24歳)に向けたリテール体験の在り方を提案する存在となっている。

「Pink」ブランドの再定義:姉妹ブランドからの脱却

これまで「Pink」は、ビクトリアズ・シークレットの「妹」的な存在と見なされてきた。同社関係者が「スマージング(smerging)」と呼ぶように、両ブランドのイメージが徐々に融合し、淡いピンクや控えめな遊び心といった共通点が見られたという。

セルマンはこうした認識を覆すため、新店舗のコンセプトを「バービーのティーン・バージョンの夢の家」になぞらえている。「Pinkは、ビクトリアズ・シークレットとは違うブランドとして、独自の世界観を築くことを目指しています」とセルマンは語る。

「コテージ」のような空間で、遊び心と居心地の良さを演出

新店舗の最大の特徴は、その空間設計にある。セルマンは「ビクトリアズ・シークレットが邸宅なら、Pinkはコテージ」と表現する。店舗に入ると、まず目に飛び込んでくるのが、光沢のあるピンクの家型の構造物。これにより店舗のスケールが引き下げられ、来店客はまるで家の中に入るような感覚を味わえる。

「Pinkは、楽しくて、少し不遜で、派手すぎない、自由なブランド。少女時代の思い出といった、カジュアルで居心地の良い空間を目指しています」とセルマンは説明する。店内には、トランクの取っ手を模した引き出しや、アイビー模様の壁、ビクトリアズ・シークレットの過去のショーで使用された小さな犬のぬいぐるみなど、まるで大学の寮やサマーハウスのような、くつろぎと遊び心を感じさせる要素が随所にちりばめられている。

レジ前のスペースには、ピンクのペナントフラッグが天井から吊り下げられ、まるで大学のイベント会場のような雰囲気を演出。セルマンは「コテージには、写真やメモ、壁に掲げられた言葉など、生活感のある要素が多くあります。Pinkのブランドコンセプトは、まさにそんな居心地の良さと遊び心にあります」と話す。

若者層の心を掴む、新たなリテール体験

セルマンが目指すのは、単なる商品の販売ではなく、ブランド体験そのものの再定義だ。新店舗では、商品の陳列方法や空間の演出を通じて、来店客が「Pink」というブランドの世界観に没入できるよう工夫されている。

「Pinkは、ビクトリアズ・シークレットの下位ブランドではなく、独自のアイデンティティを持つブランドへと進化する第一歩です。この店舗が成功すれば、ブランドの新たな方向性を示すモデルケースとなるでしょう」とセルマンは強調する。