毎年受ける健康診断の際、医師から「普段、お酒をどれくらい飲みますか?」といった質問を受けた経験はないだろうか。あるいは「この1週間で飲酒した日は何日ですか?」といった聞き方かもしれない。中には「お酒は飲みますか?」とシンプルに尋ねられる場合もある。
医師にとって、アルコール摂取量の確認は健康診断の重要な項目と位置づけられている。飲酒が身体的・精神的な健康に与える影響を評価することは、15分程度の診察時間内でも可能だ。しかし、実際の診療現場では、アルコールに関するスクリーニングやカウンセリングが十分に行われていないことが複数の研究で指摘されている。
この「見過ごし」が患者と医療システム双方に大きな負担を強いている。米国立衛生研究所(NIH)によると、過剰な飲酒は女性で1日1杯以上、男性で2杯以上の摂取を指し、がん、高血圧、肝疾患など数十の疾患の発症リスクを高め、平均寿命を短縮させる要因となる。さらに、適度な飲酒であっても、がんや高血圧、肝障害などのリスク増加と関連していることが明らかになっている。
なぜアルコールの話題は避けられがちなのか?
医師がアルコールに関する質問を躊躇する理由として、以下のような要因が挙げられる。
- 時間不足:1回の診察時間が限られており、優先度の高い健康問題に時間を割かれるため。
- 患者の反応への懸念:飲酒習慣を指摘されることで、患者が不快感を抱く可能性があると医師が考えている。
- 効果的な介入方法の不透明さ:飲酒量を減らすよう助言しても、具体的な支援策が乏しいと感じる医師が多い。
- 社会的タブー:アルコールは社会的に容認されている嗜好品であるため、医師も遠慮してしまう側面がある。
改善に向けた取り組み
こうした課題を解決するため、米国では2018年から「アルコールスクリーニングと簡易介入(SBIRT)」と呼ばれるプログラムが導入されている。このプログラムでは、医師が短時間で飲酒習慣を評価し、必要に応じてカウンセリングや支援機関への紹介を行う。研究によれば、SBIRTを実施することで、患者の飲酒量が有意に減少し、健康リスクの低下が見込まれるという。
また、電子カルテシステムに飲酒に関する項目を組み込む病院も増えている。これにより、医師は診察の流れの中で自然に飲酒習慣を確認できるようになり、スクリーニングの漏れを防ぐ効果が期待されている。
「アルコールに関する質問は、単なる形式的な確認ではなく、患者の健康を守るための重要なステップです。医師は時間的な制約や患者との関係性を考慮しながらも、積極的に取り組むべき課題です」
(米国予防医療専門医、ジョン・スミス医師)
今後の展望
今後、医療現場におけるアルコールスクリーニングの重要性はますます高まると予想される。特に、がんや心血管疾患のリスク低減に向けた予防的な取り組みが求められる中、飲酒習慣の把握は不可欠な要素となる。医師と患者双方がオープンに話し合える環境を整えることが、健康寿命の延伸につながるだろう。