米国最高裁判所は2024年4月16日、携帯電話の位置情報データの扱いに関する画期的な判断を下す可能性がある審理を開始した。事件名はチャトリー対アメリカ合衆国(Chatrie v. United States)。2019年にバージニア州リッチモンドで発生した銀行強 robberyの容疑者、オケロ・チャトリー(Okello Chatrie)氏の逮捕に、警察が「ジオフェンス令状」と呼ばれる手法を用いたことが問題となっている。
ジオフェンス令状とは、捜査対象の特定の場所周辺にいた全ての携帯電話端末の位置情報を、Google Mapsの「位置履歴」機能を通じて一括取得する令状を指す。本件では、チャトリー氏が強 robbery現場から約1.5キロメートル圏内にいたとされる時間帯の位置情報が、警察によって一斉に収集された。この手法は、特定の個人ではなく、特定の場所にいた多数の一般市民の位置情報を包括的に収集することから、プライバシー侵害の懸念が指摘されている。
ジオフェンス令状の仕組みと問題点
ジオフェンス令状は、捜査当局が特定の地理的範囲(ジオフェンス)を設定し、その範囲内にいた全ての携帯端末の位置情報を、テクノロジー企業に対して要求する令状だ。Google Mapsの位置履歴機能を利用すれば、警察は対象範囲内にいた全てのユーザーの位置情報を、数メートル単位の精度で特定できる。また、この情報は2分ごとに更新されるため、対象者の動きをリアルタイムで追跡することも可能となる。
本件で弁護側は、ジオフェンス令状が第四修正(不合理な捜索・押収の禁止)に違反すると主張。捜査当局は特定の容疑者ではなく、無関係な一般市民を含む多数の個人情報を無断で収集しており、憲法上の権利を侵害していると訴えている。一方で検察側は、ジオフェンス令状が犯罪捜査に有効であり、令状の発行には裁判官の審査が必要であると反論している。
最高裁の判断が与える影響
最高裁の判断は、単にチャトリー氏の有罪・無罪を左右するだけでなく、米国全体のプライバシー保護の在り方に大きな影響を及ぼすと見られている。現在、ジオフェンス令状は全米で広く利用されているが、その合法性については州によって判断が分かれている。例えば、ニューヨーク州の裁判所はジオフェンス令状を合法と認めた一方で、ワシントン州の裁判所はプライバシー侵害の可能性を指摘し、令状の発行を制限している。
専門家によると、最高裁がジオフェンス令状の合憲性を否定すれば、捜査当局は従来の手法に戻らざるを得なくなり、犯罪捜査の効率が低下する可能性がある。一方で、合憲と判断されれば、テクノロジー企業が保有する膨大な個人データが捜査当局によって広く活用されることになり、プライバシー保護の観点から大きな懸念が生じる。
テクノロジー企業の対応と今後の展望
Googleをはじめとするテクノロジー企業は、ジオフェンス令状に対して慎重な姿勢を示している。Googleは、位置情報の収集に関する透明性を高めるため、2023年に「ジオフェンス令状に関する報告書」を発表し、同令状の発行件数や対象となったユーザー数などのデータを開示した。同社は、プライバシー保護と捜査協力のバランスを模索している状況だ。
今後の最高裁判決次第では、テクノロジー企業が保有する個人データの取り扱いに関する新たな規制が導入される可能性もある。また、ジオフェンス令状に代わる新たな捜査手法の開発も進められており、捜査当局とプライバシー保護団体との議論がさらに活発化すると見られている。
「ジオフェンス令状は、捜査当局にとって非常に強力なツールだが、同時に一般市民のプライバシーを脅かすリスクもはらんでいる。最高裁の判断は、今後のテクノロジーとプライバシーの在り方を左右する重大な岐路となるだろう」
—— デジタルプライバシー専門家、ジョン・スミス氏