太陽は常に、磁場を帯びた荷電粒子(プラズマ)の流れ「太陽風」を四方八方に放出している。この太陽風は、太陽系内の惑星や天体の磁場や大気と相互作用し、磁気圏の後方に荷電粒子の長い「磁気尾」を形成する。
磁気尾には、薄い電流層であるプラズマシートが存在し、時折上下に「はためく」ように波打つ現象が観測される。地球の磁気尾では、磁気再結合と呼ばれるプロセスによってこのはためきが引き起こされることが知られている。しかし、火星でも同様のメカニズムが働いているかは長年の謎だった。
火星の磁気尾とは
火星は数十億年前に全球的な磁場を失ったが、それでも磁気尾を持っている。これは主に、太陽風と火星上層大気の荷電粒子との相互作用によるものだ。また、火星地殻の一部に残る強い磁場(かつての全球磁場の名残)も磁気尾の形成に影響を与えている。
これまで火星の磁気尾は、NASAの火星探査機「MAVEN」による観測でしか研究できなかった。MAVENの観測により、火星の磁気尾は非常にダイナミックで、ねじれや移動、はためきなどの現象が起きており、荷電粒子が宇宙空間に放出されることも明らかになった。しかし、MAVENは磁気尾の一部分しか観測できないため、はためきの引き金となるプロセスを特定することはできなかった。
中国の天問1号が新たな発見に貢献
中国の火星探査機「天問1号」の周回機が新たな観測データを提供し、研究者らはMAVENと天問1号の同時観測データを分析した。その結果、MAVENが磁気尾の上流域で検出した磁気再結合の兆候が、天問1号が下流域で検出したはためき現象と一致することがわかった。
はためきの前後には、一時的なねじれたプラズマ構造「フラックスロープ」も観測された。同様の現象は地球でも確認されており、磁気再結合によって上流域で生成されたフラックスロープが下流域に伝播し、磁気尾のプラズマシートの不安定性を引き起こしてはためきを誘発する可能性が示唆される。
今後の研究に期待
今回の研究結果は、火星周辺の宇宙空間におけるエネルギーの移動と放出のメカニズム解明に新たな光を当てるものだ。研究チームはさらなる調査が必要としているが、この現象が他の惑星や天体でも起こりうる可能性を示唆している。
「今回の発見は、火星周辺の宇宙空間におけるエネルギーの動的な振る舞いを理解する上で重要な一歩です。今後の研究により、より詳細なメカニズムが明らかになるでしょう。」
(AGU Advances, https://doi.org/10.1029/2026AV002343, 2026)
なお、本研究はAGU Advances誌に掲載された。