シリコンバレーの投資家で、かつてGawker Mediaを壊滅させたピーター・ティールは、再びメディア業界に対して強力な武器を手にしようとしている。今回は、AIを活用した独自の「司法システム」を構築中だ。このシステムは、報道機関やジャーナリストに対する法的圧力を、従来の裁判よりも迅速かつ低コストで行えるように設計されている。
ティールが設立を支援するスタートアップ「Objection.ai」は、 CIA、FBI、英国情報機関の元職員で構成されたチームが運営する。同社は、報道内容に異議を申し立てる「オブジェクション」を誰でも簡単に行えるシステムを提供すると主張している。申し立てが行われると、専門チームが調査を実施し、その結果をAIモデルが分析して判断を下す。対象となったメディアやジャーナリストには反論の機会が与えられるが、最終的な裁定はAIによって行われ、当事者は拘束力のある仲裁に同意することが求められる。
費用は約2,000ドルとされており、従来の法廷闘争に比べて圧倒的に安価だ。既にニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナル、英国のタブロイド紙「Mirror」の記者などが標的となっている。例えば、ニューヨーク・タイムズは、ティールの盟友であるデビッド・サックス(元PayPal COO、トランプ政権の「AI・暗号通貨担当大統領顧問」)がホワイトハウスの地位を利用してシリコンバレーの関係者に便宜を図っていると報じた記事に対して、オブジェクションが申し立てられた。ウォールストリート・ジャーナルは、トランプ前大統領がジェフリー・エプスタインの誕生日に寄せた落書きに関する記事に対して、英国のジャーナリスト、ハンナ・ブロートンはアマゾンの倉庫で従業員が死亡したにもかかわらず業務を継続するよう指示されたとする記事に対して、それぞれ異議が申し立てられている。
Objection.aiの共同設立者であるアロン・D・ソウザは、同社のウェブサイトで「Gawkerはユニークではなかった。単にクリック、怒り、アルゴリズム増幅の時代に最初に現実と対峙したメディア企業に過ぎなかった」と述べている。さらに「ティールと私はGawkerとの闘いを通じて、事実が重要であることを証明した。誰かがそれを強制しさえすれば」と主張している。
このシステムがもたらす最大の懸念は、報道の自由への脅威だ。従来の裁判では高額な費用と長い時間を要したが、Objection.aiのシステムでは安価かつ迅速に圧力をかけることが可能だ。これにより、メディアやジャーナリストが不当な法的圧力にさらされるリスクが高まる。また、AIによる判断が拘束力を持つ仲裁につながることで、報道内容の是非がAIによって恣意的に決められる可能性も指摘されている。
すでに複数のメディアが標的となっているが、Objection.aiのシステムが本格的に稼働すれば、さらに多くの報道機関やジャーナリストがその対象となる可能性がある。報道の自由を守るためには、この新たな「司法システム」がもたらす影響について、今後も注視していく必要がある。