AI業界では、テック学者のケイト・クロフォードが指摘する「AIの巨大王朝」と呼ばれる存在がある。米国の時価総額上位6社のうち4社を占めるマイクロソフト、アマゾン、グーグル、メタがその中心だ。彼らは単なるテック企業ではなく、事実上の独占体制を築いている。
一方、その「下級領主」と呼ばれる存在が、AI業界の下位勢力だ。そこから抜け出そうと、世界一の富豪であるイーロン・マスクは、自身のAIプロジェクトxAIに数十億ドルを投資してきた。しかし、莫大な資金を注ぎ込んでも、顧客を獲得するどころか、業界内での存在感すら得られていないのが現状だ。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、xAIのチャットボット「Grok」の成長は停滞している。2023年にリリースされたGrokは、マスクが運営するソーシャルメディアX(旧Twitter)に統合されたことで一時的に注目を集めたが、月間ダウンロード数は2024年1月の2000万件から、4月には830万件にまで落ち込んだ。
さらに深刻なのは、有料ユーザーの獲得状況だ。調査会社レコン・アナリティクスが26万人以上のAIユーザーを対象に実施した調査によると、Grokの有料ユーザー比率は2025年の0.173%から、2024年現在も0.174%とほとんど変化していない。これは、Xユーザーのわずか200人に1人にも満たない数字だ。
AI業界全体で有料ユーザーの獲得が難しい中、Grokの成績は特に悪い。同調査では、回答者の6%以上が有料でOpenAIのChatGPTを利用していると回答している。
その理由は明確だ。AIベンチマークサイト「LiveBench」によると、Grokの現在のモデルは、グーグルやOpenAIのモデルに比べて、推論やコーディングタスクで大きく劣っている。さらに、中国発の軽量オープンソースモデル「Kimi」や「DeepSeek」にも後れを取っている。
また、AIチャットボットの実力を競う「Chatbot Arena」でも、GrokはOpenAI、グーグル、AnthropicのClaudeモデルなどに大きく差をつけられている。
しかし、ベンチマークの結果だけでGrokの問題を語るのは早計かもしれない。中国のモデルが示すように、最も人気のあるAIモデルが必ずしも最も強力なわけではない。時には「雰囲気」が重要になるのだ。
「OpenAIはコカ・コーラ、Anthropicはペプシ、そしてGrokはRCコーラだ。誰もがコーラを飲むわけではない」
— エンジニアでテック投資家のベン・ポールディアン
ポールディアン氏の言葉が象徴するように、Grokの周囲には「雰囲気」が存在しない。業界内での評判は低く、多くのユーザーにとって魅力的な選択肢とはなっていない。
Grokの現状と今後の展望
xAIは、Grokの改善に向けて技術的なアップデートを続けているが、その成果はまだ見えていない。業界の巨人たちとの競争は激化する一方で、xAIが存在感を示すためには、単なる資金力だけでなく、実用性やユーザー体験の向上が求められる。
マスクのAI戦略が今後どのように展開されるのか、業界関係者の注目は集まっている。