人類の未来について、最も議論を呼ぶ哲学者のひとりが、再び注目を集めている。ニック・ボストロムは、オックスフォード大学在籍中の2003年に発表した論文「Are You Living in a Computer Simulation?」(あなたはコンピュータシミュレーションの中にいるのか?)で、世界的に知られるようになった。
同論文では、高度に発達した文明がやがて自らの祖先をシミュレーションする技術を手に入れ、そのシミュレーション内でさらに新たなシミュレーションが繰り返される「無限ループ」の可能性を指摘。その結果、私たちが現在経験している現実は、ごく一部の「基底 reality」ではなく、はるかに高次のシミュレーション内に存在する確率が高いと主張した。この斬新な仮説は、エロン・マスクをはじめとする著名人から支持を受ける一方で、多くの専門家から批判も浴びた。
ボストロムはその後、新たな関心の的として人工知能(AI)の研究にシフト。当初はAIが気候変動よりも深刻な脅威になるとの警告を発していたが、近年は立場を変化させつつある。2024年に発表した新たな論文では、超知能の発展が人類絶滅のリスクをもたらす可能性がある一方で、その恩恵も計り知れないと主張し、再び議論を巻き起こしている。
同論文の中でボストロムは、AIの開発が人類滅亡の危機を招くかもしれないが、それでもリスクを取る価値があると述べている。なぜなら、超知能がもたらす可能性は、人類の生活水準や文明の発展を根本から変えるほどのものだからだ。
「私は『心配性な楽観主義者』と呼んでいます」とボストロムは語る。「人類の生活を劇的に向上させ、文明の可能性を解き放つ潜在力に興奮しています。その一方で、物事がうまくいかない可能性も十分に認識しています」
ボストロムは、AIのリスクを過度に強調する「絶滅リスク論者」に対しても辛辣なコメントを残している。例えば、AI研究者のエリエゼル・ユドコウスキーが提唱する「誰かがAIを開発すれば、全人類が死滅する」との主張に対し、「誰もAIを開発しなければ、人類は何万年も前から絶滅していたでしょう」と反論。AI開発のリスクと恩恵のバランスについて、改めて議論の的となっている。
一方で、インタビューで指摘された「絶滅シナリオでは誰も生まれず、未来が閉ざされる」との指摘に対し、ボストロムは「現在生きている人々の寿命が延びる可能性がある」と応じ、AI開発のメリットを強調している。