米国南部国境における違法越境が「ゼロ」であるとするトランプ政権の主張が、現実から乖離しつつある。密入国希望者の急増は一時的に落ち着いたものの、密輸業者や犯罪組織は依然として活発に活動を続けていることが明らかになった。
当局者が指摘する実態:依然として大規模な越境が進行
アリゾナ州コチセ郡保安官事務所のティモシー・ウィリアムズ大尉は、同地域で運用されている監視システム「SABRE(Southeastern Arizona Border Region Enforcement)」の責任者だ。同システムはカリフォルニア州からニューメキシコ州にかけての国境を監視し、違法越境者を追跡している。
ウィリアムズ大尉は「依然として大規模な越境グループが、困難な地形を進み、全身迷彩服を着用し、大きなバックパックを背負って移動しているのを確認している」と述べ、国境の実態が「ゼロ」から程遠い状況にあると強調した。
データが示す国境の「漏れ」:逮捕率33%に留まる実態
SABREシステムによると、同地域では月に200~300人の越境者が確認されており、そのうち約33%が逮捕されている。しかし、残りの67%は未逮捕のままとなっている。
さらに、テキサス州ラレド地区では、最近になって約200人の国境警備隊員が再配置され、逮捕されずに越境した「逃走者(gotaways)」の増加に対応していることが「デイリー・ワイヤー」によって報じられた。
2025年3月には、ラレド、デルリオ、リオグランデバレー、ツーソン、エルセントロの各地区で逮捕者数が増加したが、これは南部国境全体の半分以上の区域に及ぶものだった。
犯罪組織の動き:密輸ビジネスは依然として「極めて儲かる」
上院国境安全保障小委員会のトップを務めるジェームズ・ランクフォード上院議員(共和党、オクラホマ州)は「犯罪組織にとって、人や薬物の密輸は極めて儲かるビジネスであり、常に新たな手法を模索している」と述べ、国境管理の強化が不可欠だと指摘した。
ランクフォード議員は「だからこそ、一貫した取り締まりが必要だ」と強調。また、国土安全保障省(DHS)から最近「逃走者」に関する統計の説明を受けていないとしながらも、近く最新情報が提供される見込みだと語った。
2025年3月の越境者数:前年比15%増
米国税関・国境警備局(CBP)のデータによると、2025年3月には約8,000人が違法越境を試み、前年同月に比べて15%増加した。しかし、この「逃走者」の統計は地区別や定期的な頻度で公表されることはなく、2025会計年度の予算報告書によれば、年間で約7万人の「逃走者」が報告されている。
現地の声:「国境は管理可能」との見解も
ツーソン地区のコチセ郡保安官マーク・ダネス氏は「国境は管理可能な状態にある」と述べ、同郡が運営するSABREシステムのデータを他の保安官や国境警備隊と共有している。
トランプ政権の主張と現実の乖離
トランプ政権は「国境は封鎖されている」と強調してきたが、その主張は事実と大きくかけ離れている。
「本日、我が国への違法越境者数はゼロだ」
米国防総省高官ピート・ヘグセス氏(当時)が2024年12月のレーガン国防フォーラムで発言し、手で「0」のジェスチャーを示した。
さらに、ホワイトハウス広報局長スティーブン・チェン氏は2025年2月にX(旧Twitter)で「過去9か月連続で国境越境ゼロ」と投稿。4月には国境警備隊長マイケル・バンクス氏が「越境者は必ず検知され、逮捕、起訴、強制送還される。国境は封鎖されている!」と主張した。
これに対し、ホワイトハウスの国境対策責任者トム・ホーマン氏は「本日の国境は、私が生きている中で最も安全な状態にある」と述べた上で、「今後もさらなる強化が必要だ」と続けた。
犯罪組織の巧妙化:新たな手法で国境を突破
専門家らは、犯罪組織が国境の監視をかいくぐるために、より巧妙な手法を用いていると指摘。例えば、地中トンネルやドローンを活用した密輸、あるいは偽造書類を使った合法的な入国ルートの悪用などが増加しているという。
こうした動きを受け、米国政府はテクノロジーの導入や国際協力の強化を進めているが、犯罪組織とのいたちごっこは続いている。