「肥満パンデミック」という言葉はもはや適切ではない。世界保健機関(WHO)などがかつて用いてきた一律的な表現では、各国の肥満率の多様な動向を捉えられなくなっていると、新たな報告書が指摘している。

同報告書は、肥満の「進行速度(velocity)」に注目することで、各国の実態をより正確に把握できるとしている。従来の「肥満率の高さ」ではなく、その「変化の速さ」を分析することで、低・中所得国では依然として肥満が急速に拡大している一方で、高所得国では進行が鈍化し、一部では減少に転じていることが明らかになった。

肥満の進行速度とは?

報告書では、肥満の進行速度を「1年間の肥満率の変化率」と定義している。例えば、肥満率が毎年1%ずつ上昇している国と、0.1%しか上昇していない国とでは、前者の方が進行速度が速いとされる。この指標を用いることで、肥満の拡大が加速している国と、抑制に成功している国を区別できるという。

先進国:進行速度の鈍化と減少傾向

高所得国では、肥満の進行速度が顕著に鈍化している。特に、アメリカやイギリス、オーストラリアなどでは、肥満率の上昇がほぼ横ばいに近づいており、一部の国では減少に転じている。この背景には、健康意識の向上や政策的な取り組み、食生活の改善などが挙げられる。

例えば、イギリスでは、2015年以降、成人の肥満率がほぼ横ばいを維持しており、子どもの肥満率もわずかながら減少傾向にある。これは、政府による食品業界への規制強化や、学校における栄養教育の充実などが奏功したとされる。

途上国:依然として深刻な拡大

一方で、低・中所得国では、肥満の進行速度が依然として高い水準にある。特に、アジアやアフリカの一部の国では、経済成長に伴い、食生活の欧米化が進み、肥満率が急速に上昇している。例えば、中国やインド、ブラジルなどでは、肥満率が毎年1%を超えるペースで上昇しており、今後数十年で深刻な健康問題に発展する可能性が指摘されている。

報告書は、途上国における肥満の進行速度が高い要因として、以下の点を挙げている。

  • 食生活の変化:ファストフードや加工食品の普及
  • 都市化の進展:運動不足やストレスの増加
  • 経済成長:所得の向上に伴い、高カロリー食品の消費が増加
  • 政策の遅れ:肥満対策が後回しにされる傾向

肥満対策の国際的な取り組み

報告書は、肥満の進行速度を踏まえた対策の重要性を強調している。先進国では、すでに取り組みが進んでいるが、途上国では、今後さらなる支援が必要とされる。

具体的には、以下のような取り組みが提言されている。

  • 食品業界への規制強化:糖分や脂肪分の多い食品の表示義務化や課税
  • 学校や職場における健康教育の充実
  • 都市計画の見直し:歩行や自転車利用の促進
  • 国際的な支援体制の構築:途上国への技術支援や資金援助

「肥満の進行速度を分析することで、各国の実態をより正確に把握し、効果的な対策を講じることができる。特に、途上国では早急な取り組みが求められる。」
— 報告書著者

今後の展望

報告書は、今後数十年の肥満の進行速度を予測している。先進国では、肥満率の上昇がさらに鈍化し、一部では減少に転じる可能性が高い。一方で、途上国では、肥満の進行速度が依然として高い水準にあり、今後数十年で深刻な健康問題に発展するリスクが高いとされている。

このような状況を踏まえ、報告書は、国際社会が協力して肥満対策に取り組むことの重要性を訴えている。

出典: STAT News