米国で自殺予防のための支援が必要な場合は、988(自殺・危機ライフライン)に電話またはテキストメッセージで連絡を。米国では11分ごとに1人が自殺で命を落としている。決して「普通」の出来事ではない。人類は生存を目指して進化してきた。それなのに、自ら命を絶つ人が後を絶たない。これは、何かが間違っている証拠だ。

精神疾患だけではない、社会的要因に注目する動き

従来の自殺予防策は、危機的な状況にある人に治療を提供することに重点を置いてきた。しかし近年、そのアプローチに変化が生まれている。「その人の周囲の世界で何が間違っていたのか?」という視点が重視されるようになったのだ。

新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、この流れを加速させた。不安やうつの発症率が急増したのは、単に「脳の化学物質が変化した」からではない。「世界が変わった」からだ。失業、孤独、経済的困窮──。こうした社会的要因が人々の心の健康に深刻な影響を与えたのである。

この現実を受け、精神保健の専門家や支援団体は、自殺予防の目標を「命を救う」だけでなく、「人々に生きる理由を与える」ことに拡大すべきだと主張し始めた。治療や危機介入は依然として重要だが、それだけでは不十分だという認識が広がっている。

生活基盤を支える取り組みが自殺リスクを低下させる

数十年にわたる研究が、この考え方を裏付けている。例えば、食料不足に悩む家庭への食料支援や、自宅に引きこもりがちな高齢者向けの読書会──。こうした取り組みは、人々の生活の質を向上させ、自殺リスクの低下につながることが明らかになっている。

ニューヨーク州の農家、クリス・パウェルスキーさん(4代目)も、その一人だ。父親の死、認知症の母親の介護、家業のタマネギ農園の経営難──。そうした圧力が積み重なり、自殺を考えた時期があったという。

「すべてが崩れ落ちてくる感じでした。何カ月、何年も続く圧力に、どうにも対処できない状態だったんです」とパウェルスキーさんは振り返る。

彼を救ったのは、家族の支えやセラピーだけではなかった。経済的な計画だったのだ。NY FarmNetという団体の支援を受け、パウェルスキーさんは卸売り向けのタマネギ栽培から、消費者に直接販売する多様な野菜栽培へと事業転換。現在は事業が安定し、借金の返済も進んでいる。

現在は、同様の状況にある人々を支援する活動に取り組んでいるパウェルスキーさん。危機ホットラインや手頃な価格のセラピーアクセスも重要だと話す一方で、「本当の解決策は、危機が訪れる前に人々の困難に対処する政策を変えることだ」と強調する。

「ヘルプラインは『銃創に絆創膏を貼る』ようなものです。長期的な視点が必要なんです」

「命を救う」から「生きる理由を与える」へ

米国では現在、11分ごとに1人が自殺で命を落としている。これは深刻で根深い問題だ。新たな予防策は、危機的な瞬間の対処から、人々に「生きる理由」を与えるための包括的な政策へとシフトしつつある。

この動きは、単に治療や介入にとどまらず、社会全体で人々の生活基盤を支えるという考え方に基づいている。食料支援、住宅の安定、コミュニティの絆──。こうした「上流」での取り組みが、自殺リスクの低下につながるのだ。

専門家たちは、このアプローチが自殺予防の「次なるフロンティア」になると期待を寄せている。