AI(人工知能)の急速な進化が、法律業界の次世代エリート弁護士を育成する「実務研修の場」を奪いつつある。ビッグローと呼ばれる大手法律事務所の収益モデルは、主に「ジュニアアソシエイト」と呼ばれる若手弁護士が実務を通じて学ぶ「徒弟制度」に支えられてきた。しかし、AIがその基盤を揺るがす可能性が浮上している。
スタンフォード大学ロースクールのデイビッド・フリーマン・エングストローム教授は、大手法律事務所がAIを活用して「弁護士の知識を抽出し、業務フローや顧客ポータル、セルフサービスツールに組み込む」動きが加速していると指摘する。同教授は「人間の弁護士が不要になる世界に備える必要がある」と述べ、法律業界の構造変化を予測する。
AIが生む新たな雇用と課題
一方で、AIが若手弁護士の仕事を奪うのではなく、新たな職種を創出する可能性も指摘されている。ヒューストン大学ロースクールのキャリア開発担当准学部長、ティファニー・J・タッカー氏は「AIスキルを持つ学生はより魅力的な候補者となり、AI活用のスキルがない弁護士は取り残される」と強調する。
エングストローム教授はまた、AIが現在の法律業務では対応できないニーズに応える新たなビジネスモデルの創出につながる可能性があるとの見方を示す。
大手法律事務所のAI導入と人員削減
大手法律事務所は既にAI導入を本格化させており、その影響は人員構成にも及んでいる。例えば、国際的大手のクリフォード・チャンスは昨年、AIツールの導入拡大を理由に人員削減を発表したとフィナンシャル・タイムズが報じた。
また、2025年の法律市場レポートによると、多くの事務所がジュニアアソシエイトの採用ペースを「減速させる」か、高額なサマーアソシエイトプログラム(将来の採用候補者を囲い込むインターンシップ)の規模を縮小していることが明らかになった。
ジュニア層の研修機会の喪失が招く未来
ヒューストン大学ロースクールのニコラス・グッゲンベルガー教授は、ジュニア層の仕事が「請求書作成」と「実務研修」の二つの役割を果たしてきた点を指摘する。同教授は「ジュニア層が研修に使う業務が自動化されれば、実務経験を積む機会が失われ、新たな弁護士の参入障壁が高まる」と警告する。
さらに、AIが低レベルな業務を代替すれば、事務所は新たな「徒弟制度」を構築する必要に迫られる。さもなければ、AIの出力結果を適切に監督できるだけの判断力を持たない弁護士が増えるリスクがあると専門家らは指摘する。
今後1年の動向が鍵に
エングストローム教授は、今後1年間が法律業界のAI活用における「岐路」になると予測する。事務所は顧客データの活用方法やAI業務フローの構築、さらにはAI利用に伴う同意問題など、様々な課題に直面することになる。
法律業界の伝統的な「レバレッジモデル」(ジュニア層の労働力でシニア層の収益を支える構造)は、AIの台頭により根本から見直しを迫られている。今後、どのような新たな人材育成モデルが生まれるのか、業界全体が注目している。