ノエル・カワードの戯曲「フォールン・エンジェルス」は、1925年に初演された珍品中の珍品だ。同氏の代表作「渦」ほどの衝撃はないが、当時のイギリス検閲官を震撼させた点で歴史的な意義を持つ。同作は、既婚女性が過去の恋愛を再燃させるという刺激的な内容で、当時の社会規範を揺るがす内容だった。
「フォールン・エンジェルス」に登場するジュリアとジェーンは、それぞれ結婚前に1度ずつ不倫を経験していた。しかし、当時のイギリスでは、この事実を率直に語ること自体がスキャンダルとされた。さらに、二人はイタリアで同じフランス人男性と同時期に恋愛関係にあったという設定も、当時の観客に衝撃を与えた。現在は退屈なイギリス人男性と結婚しているが、かつての恋人との再会を望むというストーリーは、現代でも新鮮な驚きを与える。
ブロードウェイ再演の意義
「フォールン・エンジェルス」は、2024年9月にニューヨークのタッド・ハイムズ劇場で再演された。今回の再演は、1999年に行われた「待ちわびて」のブロードウェイ初演に続くカワード作品の再評価の一環だ。同作もカワードが40年以上前に執筆した作品で、老人ホームを舞台にしたコメディだった。当時の再演では、ジェレミー・サムズによる「改訂版」が上演されたが、今回の「フォールン・エンジェルス」も、クラウディア・シアーによる「追加要素」が加えられた。その結果、3幕構成だった戯曲は90分に短縮され、休憩なしで上演されている。
ローズ・バーンとケリー・オハラのコメディセンス
演出を手掛けたスコット・エリスのもと、ローズ・バーン(ジェーン役)とケリー・オハラ(ジュリア役)が、カワードの古典的なコメディに新たな命を吹き込む。二人の演技は、ルーシーとエセルの再来とも称されるほどのコメディセンスを発揮する。特に、二人が酔いつぶれるシーンは圧巻で、観客を笑いの渦に巻き込む。
二人のコメディは、身体表現に優れており、派手な転倒や机への滑り込み、カーペットへの転落など、見事な物理コメディを披露する。観客は、二人の演技に思わず笑い転げることだろう。しかし、二人のコメディの相性は完璧とは言えず、時折、声の高さや演技のバランスに違和感を覚える場面もあった。
酔ったシーンが実質的に第2幕の全てを占めるため、第3幕では二人の演技は一転して地味になる。それでも、バーンのカツラが突然現れるという意外な展開が、観客の笑いを誘う。全体として、今回の再演はカワードの古典的なコメディに新たな息吹を与える試みと言えるだろう。