中国・江蘇省で行われた実験で、南京大学の生化学者・殷鑫博士は、同一の遺伝子を持つマウスの子孫を対象に、持久力テストを実施した。その結果、父親が運動をしていたグループの子マウスは、そうでないグループと比較して、より長距離を走り、乳酸の蓄積が少ないことが明らかになった。
驚くべきことに、この違いは遺伝子の変化によるものではなく、父親の運動習慣が子の体質に影響を与えた可能性が示唆された。研究チームは、そのメカニズムとして、父親の運動が精子のRNAに変化をもたらし、それが子の持久力向上に寄与したのではないかと推測している。
実験の詳細と発見されたメカニズム
実験では、同一の遺伝子を持つオスのマウスを2グループに分け、片方のグループには4週間にわたるトレッドミル運動を実施させた。その後、両グループのマウスを交配し、生まれた子マウスを対象に持久力テストを行った。
その結果、運動グループの父親から生まれた子マウスは、非運動グループの父親から生まれた子マウスと比較して、平均して20%長く走り続け、乳酸の蓄積も少なかった。さらに、子マウスの筋肉細胞では、エネルギー代謝に関わる遺伝子の発現が高まっていたことも確認された。
RNAが担う新たな役割
研究チームは、この現象の背景にRNAの関与を示唆している。具体的には、父親の運動が精子内の特定のRNA分子(マイクロRNA)の量や種類に変化をもたらし、それが受精後に子の遺伝子発現に影響を与えた可能性があるという。
「当初はデータを見たとき、非常に驚きました」と語る殷博士は、この発見が「父親のライフスタイルが子の健康に与える影響」についての新たな視点を提供するものだと強調する。
今後の研究と医療への応用可能性
今回の研究結果は、遺伝子レベルではなく、エピジェネティックな要因が次世代の健康に影響を与える可能性を示す重要な発見だ。研究チームは、今後さらなる実験を重ね、RNAを介したエピジェネティックな遺伝情報の伝達メカニズムを解明するとしている。
また、この知見は、不妊治療や妊娠前の健康管理にも新たなアプローチをもたらす可能性があり、医療分野への応用が期待されている。