GLP-1受容体作動薬と呼ばれる糖尿病・肥満治療薬が、不安障害やうつ病の悪化リスクを低下させる可能性があることが、大規模な実証研究で明らかになった。
スウェーデンの研究チームが発表した最新の研究によると、GLP-1薬(オゼンピック、ウェゴビィ、サクセンダ、トルリシティなど)を服用する患者は、精神疾患の悪化に関連する入院や自傷行為、自殺のリスクが有意に低下していたという。研究結果は、医学専門誌「ザ・ランセット・サイキアトリー」4月号に掲載された。
GLP-1薬の精神健康への影響を分析
研究では、2009年から2022年にかけてスウェーデンで糖尿病治療薬を処方された9万5,490人の不安障害またはうつ病患者を対象に、GLP-1受容体作動薬の効果が分析された。具体的には、以下の4種類のGLP-1薬が調査対象となった。
- セマグルチド(ウェゴビィ、オゼンピック、リベルサス)
- リラグルチド(サクセンダ)
- エキセナチド(バイエッタ、ビデュリオンBCise)
- デュラグルチド(トルリシティ)
研究では、これらのGLP-1薬を服用していた期間としなかった期間を比較する「個人内比較」と呼ばれる手法が用いられた。この手法により、年齢や性別、基礎疾患などの変動しない要因の影響を排除し、より正確な効果測定が可能となった。
精神疾患悪化のリスク低下を確認
平均5.2年にわたる追跡調査の結果、GLP-1受容体作動薬を使用していた患者のうち、23.5%がセマグルチドまたはリラグルチドを服用していた。分析の結果、GLP-1薬の服用期間中は以下のリスクが低下していたことが判明した。
- 精神科入院
- 精神疾患による長期休職
- 自傷行為による入院
- 自殺による死亡
また、二次的な解析では、GLP-1薬が不安とうつ病の症状悪化を個別に軽減する効果も確認された。さらに、物質使用障害や自傷行為の発生率も低下していた。
他の糖尿病薬との比較
研究チームは、GLP-1受容体作動薬の効果を、他の第二選択糖尿病薬(エンパグリフロジン、ダパグリフロジン、シタグリプチンなど)と比較した。その結果、GLP-1薬はこれらの薬剤と比較して、精神疾患の悪化リスクをより効果的に低下させることが示された。
統計モデルでは、薬剤の使用順序や期間、他の精神疾患治療薬・糖尿病治療薬との併用など、時間変動要因を調整し、GLP-1薬の精神健康への影響を可能な限り正確に抽出することに努めた。
専門家の見解と今後の課題
研究を主導した専門家らは、GLP-1薬がドーパミンシグナル伝達や脳の炎症を調整することで、精神健康に好影響を与えている可能性を指摘している。しかし、現時点ではGLP-1薬を精神疾患の一次治療薬として推奨するには時期尚早であり、さらなる臨床試験が必要であるとしている。
「GLP-1薬の精神健康への効果は非常に興味深い発見ですが、現時点では糖尿病や肥満治療の枠組みを超えた使用は推奨できません。今後、ランダム化比較試験などを通じて、より確かなエビデンスを蓄積していく必要があります」
(研究チーム代表者のコメント)
また、糖尿病患者は一般集団と比較して精神疾患のリスクが高いことが知られており、GLP-1薬のような包括的な治療アプローチが、身体的・精神的健康の両面で患者のQOL向上に貢献する可能性が期待されている。