米国司法省は、テキサス州北部地区の連邦検察官がニューヨーク大学ランゴーン病院に対し、未成年者(18歳未満)の患者に関する機密情報の提出を求める捜査命令を発行したと発表した。同病院は5月11日に声明を発表し、この捜査命令が刑事事件に発展する可能性があることを明らかにした。

捜査命令の背景と経緯

この捜査命令は、連邦政府が過去1年間で全米の病院に対して行った一連の捜査の一環だ。これらの捜査では、性別適合医療を受ける子どもやその治療を行う医師に関する情報の提出が求められていた。しかし、これまでの試みの多くは失敗に終わっており、少なくとも8件の捜査命令が却下されている。また、カリフォルニア州の病院に対する司法省の大規模な捜査命令も、2025年1月に取り下げられた。

ニューヨーク大学ランゴーン病院に対する今回の捜査命令は、これまでの行政命令とは異なり、刑事事件として扱われる可能性がある。これにより、医療提供者や病院関係者が逮捕・拘禁されるリスクが生じる。ただし、現時点では未成年者の保護者や患者本人は対象となっていない。

病院の対応と患者へのメッセージ

病院側は声明で、「患者、医療提供者、その他の関係者にとって懸念される出来事であることは理解しています」と述べ、個人情報保護の重要性を強調した。その上で、「当院は機密保護に最大限の注意を払っており、捜査命令への対応を慎重に検討しています」と説明した。

専門家からの批判と懸念

性的少数者の権利擁護団体「全米LGBTQ権利センター」の法律顧問であるシャノン・ミンター氏は、この捜査命令を「トランプ政権によるトランスジェンダー医療へのイデオロギー的反対に基づく、医療提供者への嫌がらせと威嚇」と強く非難した。ミンター氏はさらに、「これまでの圧力が効果を上げなかったため、司法省は今度は連邦刑事訴追という手段に訴えようとしている」と述べた。

「これは連邦権力の悪質な乱用です。まるでマフィアのような行為です」
シャノン・ミンター氏

ミンター氏はまた、捜査命令がテキサス州で行われたことについて、「政権の目標に同調する司法管轄区を狙ったものだ」と指摘した。

ニューヨーク大学ランゴーン病院のこれまでの経緯

ニューヨーク大学ランゴーン病院は、トランスジェンダー患者のケアに関してこれまでにも複数の攻撃にさらされてきた。2025年1月には、トランプ政権による大統領令を受け、同病院は未成年者向けの性別適合医療プログラムへの新規患者受け入れを停止した。この決定は抗議行動を引き起こしたが、さらに1年後の2026年には、病院は「現在の規制環境を考慮し」プログラムそのものを終了すると発表し、再び抗議を受けた。多くのトランスジェンダーの若者とその家族は、他の医療機関を探さざるを得なくなった。

その後、ニューヨーク州司法長官のレティシア・ジェームズ氏が3月初旬に病院に対し、プログラムの再開を命じた。しかし、3月18日には当時の司法副長官であるトッド・ブランシェ氏がジェームズ氏に書簡を送り、病院に対し未成年者向けの性別適合医療の再開を阻止するよう求めた。

今後の展望と影響

今回の捜査命令は、トランスジェンダー医療をめぐる連邦政府と医療機関、州政府の間の緊張関係をさらに悪化させる可能性がある。特に、テキサス州の司法管轄区で行われたことで、連邦政府の圧力が今後さらに強まることが懸念される。

トランスジェンダーの若者とその家族にとって、このような政治的介入は深刻な影響を及ぼす。多くの人々が必要な医療を受けられなくなるリスクが高まっており、支援団体や法律専門家らは引き続き注視を続けている。