AIと監視国家の未来を描くパランティアの「技術共和国」
軍事・諜報請負企業のパランティアは、米国の移民・関税執行局(ICE)向け監視プラットフォームの開発をはじめ、軍事作戦や国境警備、イスラエル軍や英国政府への技術提供など、世界各国で存在感を示してきた。しかし同社の活動は常に「オーウェル的監視国家の実現」との批判にさらされてきた。
同社CEOのアレックス・カルプは、昨年発表した320ページに及ぶ著書『The Technological Republic: Hard Power, Soft Belief, and the Future of the West(技術共和国:強権的国家像、ソフトな信念、西側の未来)』で、その世界観をより鮮明に打ち出した。同書の22項目にわたる要約が先週末に同社の公式アカウントで公開されると、その過激な主張は瞬く間に注目を集め、多くの専門家から厳しい批判を浴びた。
専門家が「テクノファシズムの典型」と指摘
ベルギーの技術哲学者マーク・クーケルベルフは、このマニフェストを「テクノファシズムの典型例」と表現。ギリシャの経済学者ヤニス・ヴァルファキスは、「AIが搭載された殺人ロボットの出現」を警告した。
テックメディアのEngadgetは、その要約を「悪役コミックの悪党の独白のよう」と評し、その内容の過激さに驚きを示した。カルプの主張は、以下のような極めて挑発的な内容で構成されている。
- 国民皆兵の義務化:カルプは「国民の普遍的義務」として国民皆兵を提言。第二次世界大戦後のドイツと日本の「非軍事化」を「間違い」と断じた。
- 「強権的国家像」の重視:政治的な「道徳的支え」を求めるのではなく、むしろ「強権的な力」を重視すべきだと主張。
- 「脱 woke」の徹底:西側諸国が「空虚な多元主義」に陥ることを批判し、差別や排除に反対する「woke」思想を排除すべきだと提言。カルプは昨年11月の投資家向け説明会で、パランティアを「完全に反wokeな最初の企業」と自称した。
- AIとソフトウェアが世界を支配する時代へ:カルプは、新たな世界秩序は「ソフトウェアとAI主導の戦争」によって決定されると主張。また「暴力犯罪の解決はシリコンバレーが担うべき」と提言したが、実際には米国の暴力犯罪は数十年にわたり減少傾向にある。
パランティアの「怖いCEO」像と実態
カルプは「世界で最も怖いCEO」と称されることもあるが、その発言は同社の実態と無関係ではない。パランティアはこれまで、ICEによる強制送還の支援や、イランにおける自律型攻撃ドローンのターゲット選定ソフトウェアの開発など、多くの論争を巻き起こしてきた。
同社の業務内容は、元社員でさえも理解が難しいとされる。昨年発行された元社員による公開書簡では、「パランティアの経営陣は設立当初の理想を放棄した」と指摘。差別やフェイクニュース対策といった当初の目的が「破壊されつつある」と警告した。また最近では、抗議活動の一環として「死体模擬倒れ」のデモンストレーションが行われるなど、同社に対する批判は高まり続けている。
技術企業の倫理的責任が問われる時代
パランティアの主張は、技術企業が国家の安全保障に与える影響力の大きさを改めて浮き彫りにした。カルプの提言は、AIや監視技術が軍事・警察分野で活用されることへの懸念を招く一方で、技術企業の倫理的責任や社会的影響についての議論を加速させるだろう。今後、同社の動向とその技術が世界にもたらす影響に注目が集まる。