米国で、生まれたばかりの赤ちゃんが突然重篤な出血症状を起こし、命を落とすケースが相次いでいる。生後数週間でけいれんを起こした7週間の男児、呼吸が20秒間止まった11ポンドの女児、嘔吐後に意識を失った男児、へその周りから出血した生後2週間の女児──。医師たちは蘇生措置や輸血、脳圧低下のための頭蓋内穿刺など、あらゆる手段を講じたが、いずれも効果はなかった。

解剖の結果、これらの乳児の死因は「ビタミンK欠乏出血症」と判明した。通常、成人が脳卒中や放射線治療後のような重篤な出血症状を示すことは稀だが、新生児に見られるのは極めて異例なケースだ。この病気は、生まれつきビタミンKが不足することで血液凝固機能が低下し、体内で出血が止まらなくなる致命的な状態を引き起こす。

ビタミンK注射は、生後直後に行われる3つの主要な医療処置(他にB型肝炎ワクチンと眼軟膏)の一つで、米国疾病予防管理センター(CDC)や世界保健機関(WHO)が推奨している。しかし近年、米国ではこの注射を拒否する親が急増している。その背景には、新型コロナウイルス感染症流行後の医療不信や、ソーシャルメディア上での誤情報拡散がある。

専門家らは、ビタミンK注射がワクチンではないにもかかわらず、麻疹や百日咳などのワクチンと同様に拒否の対象となっていると指摘する。注射は1回の投与で済み、費用も安価だが、拒否する親の中には「不要な医療介入を避けたい」という思いから、科学的根拠に基づかない判断を下すケースが後を絶たない。

ビタミンK注射の重要性と拒否の実態

ビタミンKは血液凝固に不可欠な栄養素で、母乳にはほとんど含まれていない。新生児は腸内細菌叢が未発達なため、体内でビタミンKを合成することができず、出生直後の注射が唯一の予防手段となる。米国小児科学会(AAP)は、ビタミンK欠乏症による出血リスクを「まれだが致命的」と位置づけ、全ての新生児に注射を受けることを強く推奨している。

しかし、反ワクチン運動や自然派育児を支持する一部の親の間では、ビタミンK注射に対する懐疑的な見方が広がっている。例えば、注射に含まれる添加物への不安や、体内に「異物」を入れることに対する抵抗感などが挙げられる。こうした誤った情報は、ソーシャルメディアのアルゴリズムによって増幅され、親たちの判断に影響を与えている。

実際、過去数年間に行われた解剖では、いずれのケースでもビタミンK注射を受けていないことが確認された。医師たちは、注射を拒否した親の多くが「子どもの安全を第一に考えた結果」と話す一方で、その判断が命取りになったと警告する。

医療機関と親の葛藤

医療関係者は、ビタミンK注射の拒否がもたらすリスクについて、繰り返し啓発を行っている。しかし、親の意思を尊重する医療現場では、説得が難航しているのが実情だ。ある病院の小児科医は、「親が注射を拒否した場合、私たちにできることは限られている。それでも、最悪の事態を防ぐために、あらゆる可能性を伝え続けるしかない」と語った。

一方で、ビタミンK注射の拒否は、新生児死亡のリスクだけでなく、長期的な健康被害にもつながる可能性がある。例えば、ビタミンK欠乏症は脳内出血を引き起こすことがあり、その結果、発達障害や神経学的後遺症を負うケースも報告されている。

専門家らは、親が正確な情報を得られるよう、医療機関と行政が連携して啓発活動を強化する必要性を訴えている。また、ソーシャルメディアプラットフォームには、医療に関する誤情報の拡散を防ぐための規制強化が求められている。

出典: ProPublica