2026年5月4日に開催されたメットガラ。そのレッドカーペットを歩いたインフルエンサーで起業家のエマ・チェンバレンは、アクリルインクと光沢のある絵具が渦巻くドレスで注目を集めた。まるで動く絵画のように、彼女の一歩ごとに色彩が滲み出すかのような印象を与えたのだ。
このドレスは、クリエイティブ・ディレクターのミゲル・カストロ・フレイタスが手掛けたMuglerのオーダーメイドドレスだが、その最大の見どころは、アーティストのアンナ・デラー=イーによる40時間に及ぶ手描きの芸術作品だった。裾から首元まで、一筆一筆丹念に描かれたこのドレスは、本格的な美術用具を使用して完成された。制作には4日間の乾燥時間を要し、完成したドレスはパリからニューヨークへと6フィートの輸送ケースで運ばれた。
「ファッションはアート」を体現したメットガラのテーマ
今年のメットガラのテーマは「Fashion is Art(ファッションはアート)」。メトロポリタン美術館が開催する展覧会「Costume Art」のコンセプトにインスパイアされたもので、人間の身体を通じて芸術の本質を表現することを目指していた。多くのセレブリティがこのテーマを具現化するため、名画の再解釈に挑戦。例えば、ローレン・サンチェス・ベゾスはジョン・シンガー・サージェントの「マダムX」を、グレイシー・エイブラムスはグスタフ・クリムトの「アデーレ・ブロック=バウアーの肖像 I」を、マドンナは「聖アントニウスの誘惑 II」を再現した。
一方、チェンバレンのドレスは、これらとは異なるアプローチを採用。印象派と表現主義の作品群からインスピレーションを得て、筆致と雰囲気の表現に焦点を当てた。その結果、チェンバレンはまるでキャンバスと化し、デラー=イーの技術が一つひとつのディテールで主張される作品となった。
アーティストが語る、Muglerとのコラボレーションの舞台裏
デラー=イーは、2021年にイタリアのファッションブランドMarniでプリントデザイナーとしてキャリアをスタート。以来、手描きのプリントを専門とし、デジタルスキャン可能な作品から完成した衣服への直接描画まで、プロジェクトに応じて手法を使い分けている。彼女のアナログなプロセスは世界的な注目を集め、ナイキ、ニック・ミナージュ(2024年メットガラでMarniとコラボしたドレスを手掛けた)、アンナ・ウィンターなどとのコラボレーションを実現。現在はクリエイティブエージェンシーHugo Marieのアーティスト部門に所属している。
デラー=イーにとって2度目のメットガラプロジェクトとなった今回のMuglerとのコラボレーション。彼女は2024年からMuglerのクリエイティブディレクターであるカストロ・フレイタスと共同でプリントデザインを手掛けており、その関係はますます緊密なものになっていたという。「ミゲルがMuglerに就任してから、私たちはプリントの仕事を始めました。その過程で、彼のビジョンを深く理解し、ブランドへの思い入れがより強くなっていったんです」とデラー=イーは振り返る。
そんなある日、Muglerのチームからメットガラ用のドレス制作のオファーが届いた。「誰かにこんな大きな信頼を置いてもらえるなんて、本当に驚きました」と彼女は語る。このプロジェクトは、彼女のキャリアにおいても特別な挑戦となった。