数十年前、筆者はグローバル企業で働いていた。廊下で上司とすれ違い、質問をしようとした瞬間、彼女はストレスを感じている様子で、筆者が話を終える前に答えを返した。再度尋ねると、再び同じことが起きた。3度目の挑戦で筆者は「質問が終わるまでお待ちください」と伝えた。彼女は黙り、筆者は話を終え、彼女は答えて急いで去っていった。その5分後、筆者は自分の部下に同じ態度を取ってしまった──。この瞬間は数十年にわたり心に残っている。最もドラマチックな出来事ではなかったが、筆者を恥ずかしい思いにさせた出来事だった。
筆者はその後、学んだと思っていた。しかし、捨て去りたい習慣にいつの間にか戻ってしまうこともある。多くのリーダーのコミュニケーション不足は無意識の習慣に起因する。そして、バリュー研修や文化説明会、戦略オフサイトといった取り組みだけでは、無意識の習慣を変えることはできないのだ。
これが、組織が文化を改善しようとする際の問題点だ。文化は「スキルアップ」できない。あまりに抽象的な概念だからだ。文化は、組織内で日々繰り返される数千もの会話から形成され、会議や廊下、1on1の場面で人々の行動を規定する。コミュニケーションは行動を形作り、行動は結果を生む──。これが順序だ。あらゆる指示、プレゼンテーション、フィードバック、そしてストレスに満ちたか優しい廊下での会話が、人々を望ましい行動へと導くか、あるいは遠ざけるかを決めるのだ。
組織の真の姿──文化、エネルギー、方向性──を理解したいなら、日常の会話に耳を傾ける必要がある。戦略文書が示すのは、リーダーが意図すること。会話が示すのは、実際に起きていること。そして、あらゆる会話がエンゲージメントを構築するか、あるいは破壊するかのどちらかだ。
エンゲージメントが行動と成果を分ける
エンゲージメントとは、コミュニケーションと行動をつなぐ橋のようなものだ。人々が真にエンゲージされているとき、彼らは「しなければならない」からではなく、「したい」から行動する。これが大きな違いだ。エンゲージされた人々は創造性、協働性、そして高いコミットメントを示す。一方、エンゲージメントが低いと、せいぜい「仕方なく従う」状態に陥り、いわゆる「サイレント・クイッティング」につながる。
2024年の従業員エンゲージメントは23%から20%に低下した。これは過去12年間で2度目の下落であり、コロナ禍と同等の落ち込みだ。同時に、マネジャーのエンゲージメントは30%から22%にまで低下した。さらに深刻な事実がある。チームのエンゲージメントを最も左右する立場にあるマネジャー自身が、エンゲージメントを失っているのだ。その影響は計り知れない。ガラップのデータによると、チームのエンゲージメント変動の70%はマネジャーに起因する。組織のパフォーマンスに最も大きな影響を与えるのは、チームを率いるリーダー、とりわけそのコミュニケーションの仕方なのだ。
エンゲージメントの高いチームは、エンゲージメントの低いチームと比較して、生産性が23%向上し、離職率は51%低下する。
リーダーの「3つのコミュニケーション・スーパーパワー」
筆者は20年にわたり、さまざまな業界や国のリーダーと協働してきた。その結果、高業績の組織文化を築くリーダーと、それを損なうリーダーを分ける3つの能力を特定した。筆者はこれを「3つのコミュニケーション・スーパーパワー」と呼んでいる。