中国で加速するAI普及:一般市民が「リアルタイムテスター」に
先週の平日、北京の大手モバイルインターネット企業本社前には50人以上の人々が列をなしていた。彼らは新しいAIアシスタント「OpenClaw」のインストール方法を尋ねていた。この光景は3月に南部のテックハブ・深圳でも繰り返され、エンジニアが参加者のノートパソコンに同ツールを設定する手助けを行った。
「技術の進化についていけないのではないかと不安です」と語るのは、41歳の人事担当者・孫麗(仮名)氏だ。彼女はOpenClawを活用し、複数の求人プラットフォームから履歴書を収集・スクリーニングすることを目指していた。
米OpenAIの中国版ライバル企業・DeepSeekが高性能AIモデルを発表してから1年以上が経過。中国ではAIツールの大衆化が急速に進み、職場や日常生活のあらゆる場面で活用されている。米国製モデルが計算処理能力では依然優位だが、中国人は実用性を重視し、AIを幅広く受け入れている。
6億人超が生成AIを利用 — 政府系機関が発表
中国の総人口14億人のうち、2023年12月時点で6億人以上が生成AIを利用しており、前年比で142%増加したと、政府系の中国インターネットネットワーク情報センターが報告した。AIは旅行の計画、食事の注文、配車サービスなど、日常生活の隅々にまで浸透している。
特に「エージェント型AI」の利用が拡大しており、OpenClawのようなツールがビジネス現場でも採用され始めている。AIモデルが消費するデータ量(コンピュータ科学で「トークン」と呼ばれる単位)を追跡するプラットフォーム「OpenRouter」によると、中国製AIモデルの週間データ消費量は、米国製を上回る状況にあるという。
「世界のAI普及をリードする存在」 — 専門家が指摘
上海在住の64歳の元ITエンジニア、ジェイソン・トン氏は数年前から「豆包」や「Kimi」といったAIチャットボットを日常の疑問解決に活用してきた。今年3月には上海の企業が提供するAI血糖値モニタリングサービスに参加し、AIが生成するパーソナライズされた健康アドバイスを受け取っている。
「AIの普及は避けられない流れです。馬車が列車に取って代わられたように、必ず起こることです」とトン氏は語る。
中国企業はAIを搭載した製品開発でも先行しており、高度な認知機能を持つヒューマノイドロボットや、ドライバーがレストランの予約を行うなど複雑なタスクを支援するAIシステムなどが注目を集めている。
「競争はモデルからエコシステムへ」 — 専門家が分析
アジア・ソサエティ・ポリシー研究所(Asia Society Policy Institute)の経済・技術分析センターに所属するリー・リッジリー研究員は、「AI競争は明確にモデルの性能からエコシステムの構築へとシフトしている」と指摘する。「中国のユーザーは、リアルタイムで大規模なテストケースを提供している存在だ」と同氏は述べた。
テンセント、アリババ、バイドゥといった中国のテック大手も、AIの商用化に向けた開発を加速させている。中国のAI普及は、単なる技術導入にとどまらず、グローバルな技術エコシステムの未来を形作る動きとして注目を集めている。
「技術の進化は止まらない。中国の取り組みは、世界にとって重要な実験場となっている」
— リー・リッジリー研究員