米国では、予測市場と呼ばれる新たなギャンブル形式が急速に拡大している。KalshiやPolymarketなどのプラットフォームは、選挙結果やスポーツの勝敗などに関する「イベント契約」を取引する仕組みで、株式市場と同様の規制を求めている。一方で、州政府やスポーツブック業界は、従来のギャンブルと同じ扱いを主張。規制の枠組みを巡る議論は続いている。
「同じ高揚感」を求めて再発した依存症患者たち
しかし、ギャンブル依存症の治療にあたる専門家たちは、「ラベルが変わっても、中身は同じ」と指摘する。依存症治療機関Birches Healthの臨床担当副社長シンシア・グラント博士はこう語る。
「法律上や規制上の定義は異なるかもしれませんが、治療の現場では、期待・行動・反応という同じサイクルが繰り返されています。
扉のラベルは変わっても、中に入れば同じ部屋にいるようなものです」
AP通信の取材に応じた2人の依存症患者も、同様の経験を語った。サッカーのコーチと税理士の男性は、いずれもスポーツブックへのアクセスを制限した後に、予測市場で再発し、多額の損失を被った。
スポーツブックと予測市場の共通点
両者の仕組みには、「結果に賭ける」という共通点がある。
- スポーツブック:専門家が設定したオッズに基づき、胴元(ハウス)対ギャンブラーの構図で勝敗が決まる。
- 予測市場:イエス・ノー形式の「イベント契約」を取引し、市場の動向によって利益や損失が変動。多くの参加者が「ノー」と予測する中で「イエス」を保持すれば、高額なリターンが得られる。手数料収入が主な収益源。
依存症患者にとって、この違いは「見せかけのもの」に過ぎない。
「扉の向こう側」で繰り返される負のサイクル
サッカーのコーチ(21歳)は16歳からギャンブルを始め、当初は友人との小額の賭けから始めた。18歳でカジノやスポーツブックに足を踏み入れ、借金が膨らむ中で、予測市場に手を出した。
「毎週金曜日に2,000ドルの給料が入っても、土曜・日曜にはなくなっていました。ガソリンを入れるお金もなかった」
彼は借金とクレジットカードの限度額を使い果たし、最終的に治療を受ける決断をした。税理士の男性も同様の経験を語る。
「スポーツブックと同じ高揚感を、予測市場でも感じました。それが再発のきっかけでした」
規制の枠組みを巡る攻防
予測市場業者は、「顧客対顧客(C2C)構造」や連邦法を根拠に、株式市場と同様の規制を求めている。一方、州政府やスポーツブック業界は、「ギャンブルと同じ扱いをすべき」と主張。規制当局は、どちらの立場を取るべきか判断に迷っている。
しかし、依存症治療の現場では、「どちらも同じ依存症を引き起こす」という認識が広がりつつある。グラント博士はこう指摘する。
「規制の枠組みが異なっても、依存症患者にとってのリスクは同じです。治療の現場では、その違いを重視していません」
今後の展望:依存症対策の強化が急務
予測市場の急成長に伴い、依存症対策の強化が求められている。専門家は、「予防教育の徹底」や「アクセス規制の強化」を提言。特に、若年層やギャンブル依存症のリスクが高い層に対する啓発活動が重要視されている。
一方で、業者側は自主規制の強化を進める動きも見せている。Kalshiは、顧客に対してギャンブル依存症のスクリーニングを実施し、リスクの高いユーザーにはアクセス制限を設ける方針を表明。Polymarketも、同様の取り組みを検討している。
規制当局と業界、そして治療機関が連携し、「ギャンブル依存症の拡大を防ぐ」ための包括的な対策が求められている。