政府の権力を巡る争いは、暴力を正当化する理由にはならない。それどころか、暴力によって権力を奪おうとする者に、政治的権力を行使させる資格はない。これは、米国で政治的暴力が急増する中、ドナルド・トランプ前大統領や政府高官への暗殺未遂事件が相次ぐ今だからこそ、改めて強調すべき点だ。

暴力の実行者とその主張

4月26日に行われたホワイトハウス記者協会晩餐会では、コール・トマス・アレン容疑者による銃撃事件が発生した。幸いにも、防弾チョッキを着用していたシークレットサービス職員が負傷したのみで、被害は最小限に抑えられた。アレン容疑者の犯行声明は、現在の米国の政治抗議運動で見られるありふれた主張の寄せ集めに過ぎなかった。

アレン容疑者は「私はもはや、児童虐待者、レイプ犯、裏切り者に自分の手を汚すことを許すつもりはない」と述べ、自身が「拘置所でレイプされた被害者ではない」「裁判なしで処刑された漁師でもない」「爆弾で吹き飛ばされた学校児童や飢餓で命を落とした子供、政府高官による虐待を受けた少女でもない」と強調した。こうした主張は、一般的な「No Kings(王などいない)」デモで聞かれるレベルのものだ。にもかかわらず、アレン容疑者は武装し、晩餐会の参加者を標的にしたのである。

政治的暴力の拡大とその実態

政治的暴力やテロ行為の件数を正確に把握することは難しい。その定義やカウント方法によって数値は大きく変わるからだ。しかし、政治的暴力が増加していることは明らかだ。

戦略国際問題研究所(CSIS)の調査によると、米国政府に対する国内の攻撃や計画は「少なくとも1994年以降で最も高い水準」にあるという(ウォール・ストリート・ジャーナルより)。また、メリーランド大学の「テロリズム研究・対応に関する国立コンソーシアム(START)」は、政治的暴力が2020年から2021年にかけてピークに達した後、2025年の前半8ヶ月間で前年同期比34.5%増加したと推計している。

若者とリベラル層に広がる暴力容認の風潮

アレン容疑者は31歳で、左派的な政治観を持つという点で、現在の政治的暴力の特徴を象徴している。これまで数十年にわたり、暴力的な攻撃は主に極右から発生すると考えられてきたが、その状況は変わりつつある。

CSISのダニエル・バイマン氏とライリー・マッケイブ氏は、2024年9月に「2025年は、30年以上ぶりに左翼テロ攻撃が暴力的な極右の攻撃を上回った年となった」と指摘した。これは、昨年のチャーリー・カーク暗殺未遂事件を受けた分析だ。

昨年、米国の政治的見解に関する調査(American Political Perspectives Survey)のデータを分析したスケプティック・リサーチ・センターによれば、Z世代とミレニアル世代の約3人に1人が「政治的暴力を支持する」と回答した。また、政治的に「非常にリベラル」と回答した層で暴力支持が最も高かった。暴力支持は、若い世代ほど高く、Z世代がミレニアル世代を上回り、ミレニアル世代はジェネレーションXよりも高く、ジェネレーションXはベビーブーマーよりも高い傾向が見られた。さらに、全世代を通じて、リベラル層が中道層や保守層よりも暴力を支持する割合が高かった。

暴力の正当化は民主主義の崩壊につながる

「政府の権力を巡る争いは、暴力を正当化する理由にはならない。それどころか、暴力によって権力を奪おうとする者に、政治的権力を行使させる資格はない。」

政治的暴力の拡大は、民主主義の根幹を揺るがす深刻な問題だ。政府の権力を巡る争いは、選挙や議論、法の支配を通じて解決されるべきであり、暴力に訴えることは決して許されるものではない。若者を中心に広がる暴力容認の風潮は、米国社会にとって大きな脅威となるだろう。

出典: Reason