サイバー犯罪の世界でも、AIの普及が倫理的な議論を巻き起こしている。未査読の研究によると、かつての手法にこだわる犯罪者たちは、AIの導入に強い反感を示しているという。これは、AmazonやRedditがAIによってサービスの質を低下させたと批判されるのと同じ構図だが、皮肉なことに、その批判の矛先が犯罪者自身に向けられているのだ。
英科学誌「Wired」が最初に報じたこの研究では、AIがサイバー犯罪の世界を根本的に変革しているという警告とは裏腹に、その影響は限定的であることが示された。大規模な犯罪組織では、AIをエラーチェックやコーディングの補助として活用するケースが多い一方で、技術力の低い犯罪者たちはAIの利用に強い抵抗感を示しているという。
低レベル犯罪者たちのAI不信
研究チームの一員で、エディンバラ大学の上級講師であるベン・コリアー氏は、Torネットワークを介した犯罪フォーラム(いわゆる「ダークウェブ」)を舞台にした調査結果について、次のように語った。
「犯罪フォーラムは本質的に人間のコミュニティです。そこにAIを持ち込むことは、フォーラムの目的そのものを否定する行為だと彼らは考えています。多くの犯罪者にとって、AIの利用は自分たちの技術力を否定する行為に映っているようです」
研究者たちは、2007年に設立されたハッカー向けフォーラム「Hack Forums(HF)」の投稿を分析した。その結果、AIに対する強い拒否感が浮き彫りになった。あるユーザーは「AIのくだらない投稿はやめてくれ」と不満を漏らし、別のユーザーは「AIチャットボットと話したいなら、専用のサイトに行けばいい。HFに来たのは人間との交流のためだ」と投稿していたという。
AIの出力に対する不信感
さらに、AIの出力品質に対する不信感も根強い。あるユーザーは2025年の投稿で次のように述べている。
「AIは大量のコードを処理して機能を拡張するにはまだ不十分だ。AIは基本的な作業ならそこそこうまくこなせるが、自分自身で確認しない限り、コピー&ペーストすら信用できない」
その一方で、AIの利用が完全に排除されているわけではない。研究者によると、AIに対する肯定的な言及は、AIを活用した「楽して儲ける」スキーム(例えばAIを使ったSEOスパム)に関する議論で多く見られたという。
犯罪組織のAI活用とその限界
大規模な犯罪組織では、AIを実務的な作業に活用するケースが増えている。例えば、コードのエラーチェックや、Google検索を通じたプログラミングの問題解決などだ。しかし、こうした活用法は、犯罪の質を根本的に変えるものではなく、むしろ従来の手法を効率化するツールとして位置付けられている。
研究者たちは、AIがサイバー犯罪の世界に与える影響について、過度な警戒論を否定している。AIは確かに犯罪の手口を変える可能性はあるが、その影響は限定的であり、犯罪者たちの人間関係や古典的な攻撃手法が依然として中心的な役割を果たしていると結論付けた。