米国のAIチップ密輸問題は、氷山の一角に過ぎない。昨年、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「AIチップの中国への流出を示す証拠はない」と発言し、報道を「作り話」と一蹴した。しかし、米連邦検察はこれに真っ向から反論する。過去3週間で6人の男性がAIチップの密輸容疑で起訴されたのだ。これは戦術的勝利だが、同時に密輸の横行ぶりを示す警告でもある。
米国と中国はAIチップのサプライチェーンをめぐり、国家安全保障の観点から再編を図っている。米国は先端チップの中国への輸出を規制し、軍事近代化を阻止しようとしている。一方、中国は国内産チップの採用を推進し、自給自足を強化しようとしている。しかし、双方とも「ウィリー・サットンの法則」から逃れられない。なぜチップを密輸するのか?それは「そこに利益があるからだ」—特に、執行体制が不十分な状況ではなおさらだ。
密輸の実態:25億ドル規模の闇市場
米国の閉鎖的な中国市場は、自国製品よりも高性能な代替品を求めており、米企業にとっては格好のターゲットとなっている。密輸はまた、東南アジアにおけるデータセンターインフラの新興ネットワークを、米国の敵対勢力にとっての不正なコンピューティングパワーの供給源に変えてしまった。
最近の事件からその実態が浮き彫りになっている。3月には、米スーパーマイクロコンピューター社と関係のある3人が、推定25億ドル相当のチップを台湾や同地域の拠点に出荷し、中国顧客に横流ししたとして起訴された。彼らは米当局を欺くため、偽の製品を大量に設計していたという。翌週には、タイのビジネスパートナーを通じて先端チップを中国に密輸しようとした別の3人も起訴された。
これらの起訴は、業界全体で密輸がいかに蔓延しているかを示している。一見すると「知らなかった」という言い訳も通用するが、政策、人材、取り締まりの強化で解決できる問題でもある。
抜け穴だらけの現行法:工場から空港まで
米国は強力な輸出管理法を有しているが、その規制はチップが国外に出るのを防ぐことを目的としている。しかし、チップが米国内にとどまっている限り、中国企業が合法的に購入するのを阻止することはできない。このため、密輸業者は主に関税逃れの容疑で起訴され、米国土で行われた不正取得については立件が難しいのが実情だ。
この抜け穴を埋めるため、議会はデュー・デリジェンス(顧客審査)を強化する法律を制定すべきだ。これにより、輸出前の顧客審査を厳格化し、密輸の芽を摘むことが可能になる。
執行力の不足:122万ドル vs 25億ドル
米国はAIチップの密輸撲滅に向けた執行体制の整備で、AI企業との「軍拡競争」に敗れつつある。たった1件の密輸事件で25億ドル規模の被害が出た一方で、連邦政府の輸出管理法執行に充てられる予算は年間わずか122万ドルに過ぎない。
「密輸は利益が見込める限り続く。執行体制を強化しなければ、問題はますます悪化するだろう」
— 米当局関係者
米中のAIチップをめぐる攻防は、今後も激化する見通しだ。米国は工場レベルでの管理強化を進める一方で、中国は国内産チップの自給自足を加速させている。しかし、密輸の横行は双方にとって大きな脅威であり、早急な対策が求められている。