テネシー州メンフィスで靴屋を営むエルマー(44歳)は、2月に曇り空の土曜日に店先に並べた靴を整理していた。ホンジュラス出身の彼は、店の前を行き交う買い物客に声をかけながら、背後を絶えず警戒していた。「いつでも逃げられるように準備していた」とエルマーは語る。
エルマーの家族も、この部隊の標的となった。昨年10月、靴屋の設営中に国土安全保障省の制服を着た捜査官が近くの駐車場で2人のグアテマラ人男性を逮捕。その数時間後には、向かいのタコス屋のメキシコ人経営者も拘束された。さらに12月には、19歳の甥が交通違反の取り締まりを口実に拘束され、現在もテネシー州の拘留施設に収容されている。エルマーは自身と息子も次に逮捕されるのではないかと不安を募らせている。一家は7年前、ギャングの暴力から逃れるためホンジュラスを脱出したが、米国滞在は不法とされている。
エルマーは取材に対し、「名前は伏せてほしい」と条件を出した。彼の周囲で起きた逮捕は、いずれもドナルド・トランプ前大統領が2024年9月に発令した「メンフィス・セーフ・タスクフォース」の一環だった。この部隊は、暴力犯罪の根絶を名目に、州・連邦・地元の20以上の法執行機関と州兵を動員。メンフィスの治安回復を目指すとされたが、その実態は不法滞在者の摘発に重点が置かれていた。
逮捕の8割は暴力犯罪以外、不法滞在者は800人超
MLK50: Justice Through JournalismとProPublicaの共同調査によると、2024年10月から2025年2月初旬までの約4か月間に、この部隊がメンフィス周辺で行った逮捕は5,200件以上に上った。しかし、そのうち「暴力犯罪」として逮捕されたのは25%に満たなかった。多くは未決の逮捕状に基づくものだった。
さらに、部隊は800人以上の不法滞在者を拘束したが、このうち暴力犯罪と重複していたのはわずか17人(2%)にとどまった。不法滞在のみを理由とする逮捕は、暴力犯罪の取り締まりという当初の目標とかけ離れた実態を浮き彫りにしている。
部隊の実態:犯罪取り締まりか移民排除か
トランプ前大統領は2024年9月、メンフィスを含む複数の都市で「犯罪撲滅」を掲げる特別部隊を発足。メンフィス・セーフ・タスクフォースは、メンフィス市警察、テネシー州兵、高速道路パトロール、国土安全保障調査局(HSI)、移民・関税執行局(ICE)などが参加した。表向きは「ストリート犯罪や暴力犯罪の根絶」が目的とされたが、実際の運用では不法滞在者の摘発が中心となった。
メンフィス在住の住民や関係者からの聞き取り調査によると、部隊の活動は地元コミュニティに不安を広げている。エルマーのように、不法滞在者であっても犯罪とは無関係な市民が標的にされている実態が明らかになっている。
住民の声:不安と不信が広がる
エルマーは「私たちも次に逮捕されるのではないか」と漏らす。ホンジュラスから逃れてきた一家にとって、米国は安全な避難先だったはずだった。しかし今、彼らは再び迫害の恐怖にさらされている。
メンフィス在住のジャーナリスト、ウェンディ・C・トーマスは「この部隊の活動は、犯罪撲滅というよりも、移民排除の手段として機能している」と指摘する。「暴力犯罪の根絶が目的なら、なぜ不法滞在者の大半が犯罪歴のない人々なのか」と疑問を呈する。
取材協力の呼びかけ
MLK50とProPublicaは、メンフィス・セーフ・タスクフォースの実態をさらに明らかにするため、引き続き取材を進めている。メンフィス在住で、部隊の活動に関わる出来事があった方(住民、捜査官を問わず)からの情報を募集している。以下の連絡先で受け付けている。
- ウェンディ・C・トーマス(Signal: wendicthomas.96)
- メール: [email protected]