電気自動車(EV)とeVTOL(電動垂直離着陸機)は、いずれも電動モーターを動力源とする点で共通している。しかし、その設計や運用には大きな違いがある。特に、コスト、重量、安全性に関わる技術的課題は、地上輸送と航空機ではまったく異なるアプローチが求められる。
元テスラのエンジニアが語る、eVTOLモーターの特徴
ジョン・ワグナー氏は、テスラでバッテリーエンジニアリングのシニアディレクターを務めた後、2017年にカリフォルニアを拠点とするeVTOL開発企業ジョビー・アビエーションに移籍。現在は同社でパワートレインと電子機器の開発をリードしている。同氏はIEEE Spectrumの取材に対し、EVとeVTOLのモーターにおける技術的な違いについて解説した。
コストと重量のトレードオフ:地上と空の違い
ワグナー氏によれば、地上輸送機器と航空機では、コストと重量のバランスに対する考え方が根本的に異なるという。
「地上輸送では、コストが最も重要な要素です。ある程度の重量削減のために部品コストを上げるかどうかは、経済的な判断に委ねられます。しかし、航空機の場合、重量削減と効率向上のために、コストをかけることが許容されるケースが多くあります。」
例えば、eVTOLでは、高価なコバルト鉄合金「パーメンデュア」を使用することで、モーターの性能を向上させる選択肢がある。この素材は従来のモーター用鋼材の約10倍のコストがかかるが、航空機の性能向上には十分に見合う価値があるとワグナー氏は指摘する。
安全性と冗長性:航空機ならではの課題
EVとeVTOLのモーターは基本的に同じ技術が用いられているが、安全性に関する要求は大きく異なる。EVの場合、故障時には路肩に停車すればよいが、eVTOLでは「継続的な安全な飛行と着陸」が求められる。
「航空機では、故障時の対応策として冗長性が重視されます。地上輸送のように路肩に停車するという選択肢はありません。そのため、モーターやシステムの設計段階から、故障リスクを最小限に抑えるための冗長設計が不可欠です。」
ワグナー氏によると、EVの場合、冗長性は主目的ではなく、例えば四輪駆動車における前後輪のモーター配置など、副次的な機能として組み込まれることが多いという。
製造プロセス:統合 vs 分業
EV産業では、大規模なエンジニアリングプロジェクトを効率的に進めるため、システムを複数のサプライヤーに分割し、各パーツを外部調達する手法が一般的だ。しかし、このアプローチには「インターフェースの非効率性」という課題が伴う。
「自動車業界の成熟したサプライチェーンを活用することで、各部品の品質は向上します。その一方で、システムを分割することで、部品間のインターフェースが生み出す非効率性が問題となります。当社では、高度に統合されたソリューションを開発することで、この製造上のペナルティを回避しています。」
ジョビー・アビエーションでは、モーターやバッテリー、制御システムなどを一貫して設計・製造することで、システム全体の最適化を図っている。
今後の展望:eVTOLはEVのように普及するか?
ワグナー氏は、パワートレイン技術の将来性について楽観的な見方を示す一方で、航空機の電動化には依然として多くの課題が残されていると指摘する。
「パワートレイン技術の進化は、今後も加速していくと考えています。しかし、eVTOLがEVのように一般的に普及するかどうかは、規制、安全基準、インフラ整備など、さまざまな要因にかかっています。」