アメリカにおけるダイエット文化は根強い。痩身への執着は単なる社会的理想を超え、まるで宗教のような存在だ。しかしその一方で、努力を重視するアメリカ社会において、GLP-1薬(オゼンピック、ウェゴビィ、ゼプバウンドなど)による「即効性のあるダイエット」は、従来の「痛みなくして得るものなし」という価値観と相反する存在として受け止められている可能性がある。
このほど、ライス大学が国際学術誌「International Journal of Obesity」に発表した研究によると、GLP-1薬の人気と効果にもかかわらず、周囲からの評価は厳しいものとなっている。特に、薬の服用後に体重が戻った場合のスティグマ(社会的烙印)は顕著だという。
研究チームは、GLP-1薬で体重を減らした人、食事と運動で減らした人、全く体重を減らしていない人の3グループに対する評価を比較した。その結果、GLP-1薬を使用した人は、食事と運動で減量した人よりも厳しく評価されるだけでなく、「全く体重を減らしていない人」よりも悪い評価を受けるという驚くべき結果が明らかになった。
「GLP-1薬の使用に対するスティグマは予想していたが、その厳しさには驚かされた」
—ライス大学心理学准教授、エリン・スタンデン(研究共著者)
研究チームはこの現象を「GLP-1パラドックス」と名付けた。体重減少がスティグマの解消につながらず、むしろ新たな形のスティグマを生み出すという矛盾した現実を示している。
GLP-1パラドックスの背景
- アメリカでは72%の成人が過体重または肥満であり、ダイエット産業は数十年にわたり拡大を続けている。
- GLP-1薬は短期間で大幅な体重減少を実現するが、服用中止後に体重が戻るケースが多い。
- アメリカ社会では「努力なくして成果なし」という価値観が根強く、薬に頼るダイエットは「楽をして痩せる」というレッテルを貼られやすい。
研究者らは、GLP-1薬の使用に対するスティグマが、単に体重減少の有無だけでなく、「どのように痩せたか」という方法にも及んでいると指摘する。これは、アメリカ社会におけるダイエットに対する複雑な価値観を浮き彫りにしている。
出典:
Fast Company