米航空宇宙局(NASA)は米国時間5月21日、メリーランド州グリーンベルトにあるゴダード宇宙飛行センターで記者会見を開き、ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡(NGRST)が完全に組み立てられ、9月の打ち上げに向けて最終準備が整ったと発表した。
同望遠鏡は、ハッブル宇宙望遠鏡の計画立案に貢献した天文学者ナンシー・グレース・ローマン氏にちなんで命名された。ハッブルやジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡とは異なり、広視野撮像システムを搭載しており、地球に毎日1.4テラバイトの観測データを送信する能力を持つ。
また、その歴史はNASAの計画と米国の偵察衛星の余剰ハードウェアが融合したユニークな経緯を持つ。
大気の壁を超える赤外線観測
地球の大気中の多くのガスは赤外線波長を吸収し、温室効果を引き起こす。この効果は地球の居住性を維持する一方で、地上からの赤外線天文学を困難にしている。しかし、初期銀河や系外惑星の大気特性など、重要な天文現象の多くは赤外線でのみ観測可能だ。
これまでにもスピッツァー宇宙望遠鏡など、赤外線専用の宇宙望遠鏡が打ち上げられてきたが、ローマン望遠鏡はその集大成となる次世代天文台として位置づけられている。
偵察衛星の技術が生かされた歴史
ローマン望遠鏡の開発は、NASAの科学ミッションと米国の国家偵察局(NRO)が保有していた偵察衛星の技術が融合した歴史を持つ。2012年、NROは不要となった2基の大型望遠鏡をNASAに寄贈。これを基に、ローマン望遠鏡の設計が始まった。
この経緯により、ローマン望遠鏡は従来の宇宙望遠鏡よりも大幅にコストを抑えつつ、高い性能を実現した。打ち上げは当初の予定より8か月早まり、予算内で完了。NASAの効率的なプロジェクト管理の成功例として注目される。
今後のミッションと期待
ローマン望遠鏡は、宇宙の膨張の謎解明や暗黒エネルギーの研究、系外惑星の探索など、幅広い天文学分野に貢献することが期待されている。打ち上げ後は、地球近傍のラグランジュ点L2に配置され、少なくとも5年間にわたり観測を続ける予定だ。