映画保存の重要性を訴える関係者にとって、ケン・ラッセル監督の「悪魔」は、決して本来の形で鑑賞できないと諦められていた傑作のひとつだった。ラッセル監督といえば、過激な表現で知られる「恋する女たち」「アルタード・ステーツ」「リストマニア」などの作品を手掛けた、まさに型破りな映画作家だ。
ラッセル監督の最高傑作とされるのが、1971年に公開された「悪魔」である。この作品は、性的描写、暴力、冒涜的な内容ゆえにバチカンから非難を浴び、批評家からも酷評され、多くの国で上映禁止処分を受けた。しかし、この度カンヌ映画祭で初公開された4K修復版の上映により、50年以上の時を経て、監督の意図した本来の姿で再び劇場で鑑賞できる機会が訪れたのだ。
「悪魔」は、オルダス・ハクスリーの小説『ルーダンの悪魔』と、ジョン・ホワイティングによる同名舞台劇を原作としている。歴史的事実に基づく部分もあるが、ラッセル監督は歴史的正確性よりも、壮大なスペクタクルと過激な表現を重視した。主演はヴァネッサ・レッドグレイヴとオリバー・リードで、二人はラッセル監督とのタッグで「ダンテズ・インフェルノ」や「恋する女たち」でも共演していた。
物語は、17世紀フランスの司祭ウルバン・グランディエを描く。グランディエは魔女として告発され、火刑に処された「ルーダンの悪魔憑き事件」をモチーフとしている。作品は性的逸脱と抑圧、権力の乱用と操作をテーマに、時にキャンプな演出で、時に下品な表現で、今なお衝撃を与える暴力的なシーンが満載だ。特に、デレク・ジャーマンが手掛けたセットは圧巻の美しさを誇る。
本作は公開前から検閲の対象となり、特に「キリストの強姦」と呼ばれるシーンがカットされた。このシーンでは、裸の修道女たちがキリスト像を襲うという衝撃的な描写があった。1971年の初公開以来、本作は公式・非公式を問わず、テレビ、劇場、ホームビデオなどで様々な形で公開されてきた。最高画質のホームビデオは、2012年に英国映画協会(BFI)がリリースしたイギリス版カットのDVDだったが、多くの映画愛好家はこのディスクやそのコピーを大切に保管していた。
4K修復版は、これまで「シャダー」「フィルムストラック」「クリテリオン・チャンネル」などのストリーミングサービスで断片的に公開されることもあったが、今回の劇場公開により、初めて本来の姿で鑑賞できる機会が広がることになる。