かつてアメリカで「Make America Healthy Again(MAHA、健康第一でアメリカを取り戻せ)」と呼ばれる運動を主導していたのは、主に子どもの健康を心配する母親たちだった。ワクチンの安全性や食品添加物への不安を背景に、彼らはドナルド・トランプ元大統領の当選を後押しし、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏を「アメリカのトップ健康インフルエンサー」の地位に押し上げた。その中心にあったのは、次世代への恐怖を煽るメッセージだった。

しかし今、その「次世代」が成長し、自ら声を上げ始めている。特にZ世代と呼ばれる若者たちは、主流の医療機関や公的機関への信頼が低く、MAHAのメッセージに敏感に反応する傾向にある。

若者インフルエンサーが変えるMAHAの顔

MAHAの新たな担い手として注目を集めているのは、10代後半から20代前半の若い女性たちだ。例えば20歳のLexi Vrachalusは、種油や砂糖を使わない食事や買い物の様子を動画で発信している。イースター前後には、メープルシロップと牛由来ゼラチンで「ペプシ」のような菓子を手作りする動画を公開し、「健康は自分で取り戻せる。体を癒す力を信じよう」とメッセージを発信した。

彼女と同様に、若者向けの健康コンテンツを発信するインフルエンサーには、若手映画監督のGrace Priceや「クリーンライフ」を提唱するAva Noeなどがいる。彼らの動画は、従来のMAHA支持者が子どものワクチン問題を語るのとは異なり、より若者らしい感性で「健康的な生活」を提案している。

Vrachalusによれば、彼女のフォロワーには「親に健康的な食事を勧めるにはどうすればいいか」や「家では junk food ばかり食べる親のもとで、どうやって健康的に過ごせばいいか」といった質問が寄せられるという。

表面的な健康志向が招く危険な陰謀論

一見すると、若者が健康的な食生活を送ろうとすることは何ら問題ないように思える。しかし専門家は、その先に潜む危険性を指摘する。大人向けのMAHAインフルエンサー文化では、当初「健康食品への関心」や「環境問題への懸念」といった表面的なメッセージから始まった主張が、やがて「権力者による嘘」という陰謀論へとエスカレートし、ワクチン忌避などの危険な行動につながるケースが見られるという。

「健康的な食品や環境問題への関心という表層的なつながりの裏側には、『彼らは(リベラルな勢力が)嘘をついている』という陰謀論的な考えが流れている」
——オレゴン大学 情報政治・メディア倫理学教授 ホイットニー・フィリップス

現時点では、若者世代がMAHAを支持する割合は30~40代よりも低いという調査結果がある。しかしソーシャルメディア上でMAHAに関連する健康動画が拡散される機会は増えており、若者の間で健康情報に関する誤情報が広がりつつある兆しが見られる。

2024年に行われた「ニュースリテラシー・プロジェクト」の調査によると、ティーンエイジャーの80%がソーシャルメディア上で陰謀論に触れており、そのうちの大半が「少なくとも1つの陰謀論を信じている」と回答している。

教育現場で求められるリテラシー向上

専門家は、若者が健康情報を正しく評価できるよう、教育現場でのリテラシー向上が急務だと指摘する。しかしそのためには、彼らが普段接しているプラットフォームや表現方法に合わせたアプローチが必要だという。

「アメリカ人がどこにいるのかを理解し、彼らのいる場所に赴くことが大切だ」とフィリップス教授は語る。若者向けの健康情報発信が増える中、そのメッセージの真偽を見極める力を養うことが、今後の課題となりそうだ。

出典: Vox