米国の元大統領ドナルド・トランプ氏による、自身が率いる政府に対する法的請求は、その「恥知らずさ」で際立っている。なかでも注目を集めているのが、2025年1月に起こした内国歳入庁(IRS)に対する訴訟だ。トランプ氏は、自身の納税申告書がニューヨーク・タイムズ紙にリークされたとして、100億ドルの損害賠償を求めている。
現在、交渉が大詰めを迎えており、双方が極めて寛大な和解条件に合意しようとしている。これは、米国の納税者を「恥知らずに食い物にする」行為だと専門家は批判する。
トランプ氏の政府に対する3つの財務請求
トランプ氏はこれまでに、自身の政権に対して3つの財務請求を行ってきた。いずれも、政府に対する請求を示唆しながら、実際には訴訟の脅しによる金銭的補償を求める「行政請求」の形を取っている。
1. ロシアゲート調査に関するFBIの不法行為(2023年)
トランプ氏は2023年、連邦捜査局(FBI)がロシアゲート調査で不法行為を行ったとして、1億1500万ドルの損害賠償を求める行政請求を司法省に提出した。その後、2024年には、マー・ア・ラゴでの書類捜索に関しても同様の請求を行い、合わせて2億3000万ドルを要求した。
2. マー・ア・ラゴ書類捜索に関するFBIの不法行為(2024年)
2024年の請求では、FBIによるマー・ア・ラゴの書類捜索が不法行為に該当すると主張し、再び1億1500万ドルの損害賠償を求めた。これらの請求は、トランプ氏が2025年1月に再び大統領に就任した後も継続されており、自身の司法省と交渉を行っているという矛盾が指摘されている。
3. IRSに対する100億ドルの損害賠償請求(2025年)
2025年1月に起こしたIRSに対する訴訟は、他の2つの請求とは異なり、独立した司法機関である連邦地裁の判事が関与する点が特徴だ。判事のキャスリーン・M・ウィリアムズ氏は、オバマ政権下で任命された経歴を持つが、たとえトランプ氏任命の判事であっても、大統領が自身の司法省を相手取って訴訟を起こすことに理解を示すことは難しいだろうと述べた。
「トランプ氏は自身の個人資格で訴訟を起こしていると主張しているが、彼は現職の大統領であり、相手方は彼の指揮下にある団体だ」
ウィリアムズ判事は4月24日、司法省とトランプ氏に対し、5月20日までに「当該事件に係る争点の存在」についての覚書を提出するよう命じた。これは双方にとって望ましい状況ではなく、交渉の加速が予想される。
和解交渉の行方と納税者への影響
ニューヨーク・タイムズ紙によると、現在進行中の和解交渉では、IRSがトランプ氏、その家族、および関連企業に対する税務調査を停止することが条件とされる見通しだ。これにより、トランプ氏は「慈善団体に寄付する」との建前を維持する必要がなくなる。
しかし、この和解が成立した場合、税務調査の停止に伴い、実際に発生するはずだった罰金や追徴金が回避される可能性がある。専門家は、これが「納税者の負担につながる」と指摘する。なぜなら、税務調査の停止により、本来回収されるべきであった税収が失われる可能性があるためだ。
また、トランプ氏の請求が大統領在任中に行われたという点も、法的な問題をはらんでいる。ウィリアムズ判事は、大統領が自身の指揮下にある政府機関を相手取って訴訟を起こすことの矛盾を指摘しており、和解が成立しない場合でも、訴訟の成否には疑問符がつけられている。