米国の左派ストリーマー、ハサン・ピカー(Hasan Piker)は、政治的主張をゲーム配信中に展開することで知られている。20世紀後半であれば単に「面白い(とはいえ疲れる)相手」で済んだかもしれないが、現代では米国で最も影響力のある左派論客の一人となり、進歩主義候補の代弁者としても活躍し、民主党内のイスラエル政策をめぐる議論で重要な存在となっている。

ピカーはイスラエル寄りの民主党議員によるイスラエルの行為の擁護に対する批判を正当なものと捉えている。その一方で、反西側勢力や反米政権の犯罪行為を軽視または正当化する発言も多い。こうした二重基準は、左派の倫理的正当性を損なうリスクを孕んでいる。

ピカーを巡る議論の激化

過去1カ月間、穏健派の民主党議員らはピカーの「反ユダヤ主義的」で「憎悪に満ちた」発言を理由に党から排除すべきだと主張してきた。具体的には、米国は「9.11を受けて当然だ」と発言したり、イスラエルよりも「ハマスの方が1,000倍優れている」と述べたほか、超正統派ユダヤ人を「近親交配の集団」と呼んだことが問題視されている。しかし、この排除運動はほとんど支持を得られていない。

最近では、中道左派のコラムニストであるエズラ・クライン(Ezra Klein)がピカーの反ユダヤ主義容疑を否定し、民主党内のリベラル勢力の象徴的なポッドキャスト「Pod Save America」がピカーを番組に出演させるなど、ピカー擁護の動きが広がっている。イスラエル寄りの民主党議員でさえ、ラーム・エマニュエル(Rahm Emanuel)やギャビン・ニューサム(Gavin Newsom)などがピカーのライブ配信に出演する意向を示している。

政治的な必要性と倫理的な問題

政治的な観点から見れば、ピカーの影響力は無視できない。彼の視聴者層は民主党の基本的な目標を共有する層で構成されており、その支持は民主党にとって貴重なものとなっている。しかし、ピカー自身の政治観は別の問題だ。彼の反シオニズムの正当性を巡る議論は多くなされているが、それだけにとどまらない。

ピカーは左派から高く評価されている。進歩主義候補者らは彼を代弁者として称賛し、社会主義系の論客らは「イスラエルによるパレスチナ人抑圧」「米国の軍事介入」「民主党幹部の支援」を批判するピカーの姿勢を称賛している。彼らによれば、ピカーが中道派から敵視される理由は、イスラエル寄りの民主党議員がパレスチナ人の抑圧を正当化する一方で、ピカーが「不屈の平等主義」を貫いているからだという。

しかし、この主張には一面的な真実しかない。多くの民主党議員がイスラエルのパレスチナ人抑圧やガザでの大量虐殺を正当化してきたのは事実だが、ピカーも同様の倫理的な誤りを犯している。中国共産主義、ロシア帝国主義、イスラム主義テロリズムに関するピカーの発言は、米国やイスラエルの犯罪行為を批判する一方で、それと同じように倫理的に無責任な主張を展開しているのだ。

「キャンピズム」の危険性

ピカーの思想を表す最適な言葉は「キャンピズム(campism)」かもしれない。これは、外国の運動や政権を西側への敵対心の度合いで判断し、進歩主義的価値観の遵守度で判断しない左派の一派を指す。こうした部族主義は、米国やイスラエルの犯罪行為を批判する一方で、その敵対勢力の犯罪行為を軽視するという二重基準を生み出す。その危険性は、西側寄りの主張であれ反西側の主張であれ、倫理的な一貫性を欠く点にある。

ピカーの主張は、西側の行為を厳しく批判する一方で、反西側勢力の行為を軽視または正当化する傾向が強い。例えば、中国共産党の人権侵害やロシアのウクライナ侵攻を批判する一方で、イスラム主義テロ組織の行為を「抵抗運動」と称賛する発言を繰り返している。こうした主張は、左派の倫理的な一貫性を損ない、その正当性を揺るがす要因となっている。

「ピカーの思想は、西側への敵対心で判断されることで、倫理的な一貫性を失っている。左派の倫理的な正当性を守るためには、こうした二重基準を排除しなければならない」

左派の倫理的な課題

ピカーのような論客が左派内で支持を集める背景には、民主党内のイスラエル政策をめぐる議論の複雑さがある。多くの民主党議員がイスラエルの行為を擁護してきた一方で、ピカーのような過激な発言が左派の支持を集める構造的な問題も指摘されている。

しかし、左派がピカーのような論客を支持することで、倫理的な正当性を損なうリスクがある。左派は、西側の行為だけでなく、反西側勢力の行為についても厳しく批判することで、その倫理的な一貫性を示す必要がある。ピカーの主張は、左派の倫理的な課題を浮き彫りにしていると言えるだろう。

出典: Vox