シャルリン・ブルゴワ・タケット監督によるフランス映画「ある女の人生」(原題:La Vie d’une Femme)が、第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で初上映された。同作は、光の加減で肌の輝きだけが際立つ極端なアップショットで幕を開ける。その官能的な瞬間から始まる物語は、その後、ガブリエルという中年の外科医の人生を、章ごとに丁寧に紡いでいく構成となっている。
同作は、各章にタイトルが付けられた構成で展開される。例えば「分身」「憐憫」「制御不能」「関係の終わり」「手放すこと」「センチメンタルなシンポジウム」など、全体で12の章に分かれている。この手法は、2021年のカンヌで注目を集めたジョアキム・トリエ監督の「ザ・ワースト・パーソン・イン・ザ・ワールド」(原題:Julie (in 12 Chapters))を彷彿とさせるが、同作の主人公ジュリーの若く混沌とした生き方とは対照的に、本作の主人公ガブリエル(レア・ドゥルカー)は、極めて冷静で、時に支配的な性格を持つ。
ガブリエルは、微細外科手術を専門とする外科医であり、その仕事は繊細で緻密な作業を要する。彼女は日常生活においても同様の精密さを求め、会議から手術室へと慌ただしく駆け回り、時には手術中に会議をキャンセルすることも厭わない。周囲のスタッフには、自分と同じく献身的で疲れを知らない存在を期待する。映画全体のテンポは神経質で切迫しており、ピアノのソロ演奏が観客を落ち着かせるどころか、むしろ不安を煽るような演出が施されている。
ガブリエルのストレスは、家庭生活にも及ぶ。夫アンリの連れ子とその友人たちが大音量で音楽を流すことに苛立ち、別居か離婚かという選択肢しか思い浮かばない。さらに、母親がアルツハイマー病の兆しを見せ始め、介護施設への入所が検討される。そんな状況下で、恋愛や浮気どころではないはずだが、作家のフリーダ(メラニー・ティエリー)がガブリエルの日常に同行し、書籍の取材を始める。その出会いは、メンデルスゾーンの「ヘブリディーズ序曲」が流れるダンス教室で、官能的な雰囲気に包まれる。しかし、その静謐な瞬間も束の間、ガブリエルは再び病院へと戻り、がん患者に手術を勧めるも、患者が拒否した際には「あなたを待ち受けるのは、穏やかな死ではないのです」と冷静に告げる。
ガブリエルは周囲の誰とも衝突を繰り返す。同僚に「私は自分の選択や性別の犠牲者ではない!」と主張するシーンでは、建設現場の騒音がBGMのように流れ、不穏な緊張感が漂う。ブルゴワ・タケット監督は、ガブリエルとフリーダの関係が芽生える様子を、官能的な描写と緊迫感のある演出で対比させる。しかし、その関係もやがて、ガブリエルの仕事とプライベートの狭間で揺れ動くこととなる。
本作は、中年の女性が抱える葛藤と官能性、そして社会的なプレッシャーを、緻密な構成と官能的な映像で描き出す。ガブリエルというキャラクターを通して、現代社会における女性の生き方とその複雑さを浮き彫りにしている。