膵臓がんは、治療が難しいがんの一つとして知られている。その理由の一つは、がんが長期間にわたり症状を示さず、発見が遅れることだ。さらに、手術で腫瘍を除去しても、隠れていたがん細胞が再び活性化し、再発するケースが多い。

米ニューヨーク州ロチェスター大学医学部の研究チームは、膵臓がんが免疫システムを回避するメカニズムの一端を解明した。同研究は学術誌「Developmental Cell」に掲載された。

Dec2遺伝子が免疫回避のカギを握る

研究を主導した外科医・科学者のダレン・カルピゾ博士は、「膵臓がんの5年生存率はわずか13%で、手術後も再発する患者を多く見てきました。今回の発見は、がん細胞が長期間潜伏し、再発する仕組みの解明に一歩近づいたと言えます」と語る。

研究チームは、Dec2と呼ばれる遺伝子に注目した。Dec2は、がん細胞表面の分子を調整し、免疫システムの攻撃から逃れる役割を果たしていた。実験では、Dec2を除去すると、免疫細胞(キラーT細胞)ががん細胞を認識しやすくなることが確認された。

概日リズムが治療効果に影響

さらに驚くべきことに、Dec2の活動は「概日リズム」と呼ばれる体内時計と連動していた。Dec2の発現量は1日の中で変動し、治療効果が時間帯によって異なる可能性が示された。カルピゾ博士は、「免疫療法を朝に投与すると効果が高いとの臨床観察がありますが、今回の発見はその理由を生物学的に説明するものです」と指摘する。

mRNAワクチンとの関連性

最近、膵臓がんに対するmRNAワクチンの臨床試験が注目を集めている。米メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで行われた小規模な試験では、16人の患者のうち8人が免疫反応を示し、数年間生存した。しかし、残りの8人は反応が見られなかった。

カルピゾ博士は、「ワクチン療法はT細胞ががん細胞を攻撃することで効果を発揮します。Dec2の働きが阻害されなければ、ワクチンの効果も低下する可能性があります」と懸念を示す。研究チームは、Dec2を標的とした新たな治療法の開発に向け、さらなる研究を進めている。

「膵臓がんの治療成績を向上させるには、がん細胞の潜伏メカニズムと免疫回避の仕組みを解明することが不可欠です。今回の発見は、その一助となるでしょう。」
— ダレン・カルピゾ博士