ハリウッドでは、AI技術を活用して故人の俳優を映画に出演させる動きが加速している。業界団体のストライキや公衆の反発にもかかわらず、AIによる「蘇生」は新たな段階に突入しつつある。
ラスベガスで開催された業界見本市では、故ヴァル・キルマー(享年65歳)のAIを用いた映像が公開された。キルマーは昨年、癌により死去したが、遺産管理団体の許可を得て、AI技術を用いて映画「As Deep as the Grave(邦題:墓の奥深くまで)」への出演が実現した。同作は、キルマーが生前に演じる予定だったカトリック司祭とネイティブアメリカンの霊能者の役をAIで再現したものだ。
公開されたトレーラーでは、AIが演じるキルマーが子供に向かって「死を恐れるな、私を恐れるな」と語りかけるシーンが話題となった。また、馬に乗るキルマーの映像では、顔が影に隠れており、AIによる加工が施されていることが明らかとなった。視聴者からは「トレーラー全体がAIで作られたように見える」「亡骸が無残に掘り起こされるシーンが含まれている」といった厳しい声が上がっている。
この動きは、故人の肖像権をめぐる倫理的な議論を再燃させた。ハリウッドではこれまでも、故人の俳優をAIやCGIで蘇らせる試みが行われてきた。例えば、キャリー・フィッシャー、ポール・ウォーカー、ジェームズ・ディーンなどがその例だ。しかし、生成AI技術の登場により、これまで高コストだったCGIに比べて、はるかに低コストで故人の映像を作成できるようになった。一般ユーザーでも、OpenAIの動画生成アプリ「Sora」などを使って故人の映像を作成することが可能となっている。
業界関係者からの批判と遺族の反応
この動きに対し、俳優のジャクソン・ラスボーン(代表作「トワイライト」)は激しい非難を浴びせた。ラスボーンはSNSで「これは私が今まで見た中で最も卑劣な行為だ」と投稿し、SAG-AFTRA(米国俳優組合)に対して「118日間に及ぶストライキで合意したはずのAI保護規定を履行せよ」と要求した。さらに、キルマーの娘であるメルセデス・キルマーに対しても「お父様の死を悼んでいるのでしょうか?それとも経済的利益を得るために父親の死を利用しているのでしょうか?」と厳しく追及した。
メルセデス・キルマーはヴァラエティ誌に対し、「父は常に新しい技術を前向きに捉え、 storytelling の可能性を広げるツールとして活用してきました」とコメント。実際、キルマーは喉頭がんにより声を失った後も、AI技術を用いて自分の声を再現する試みを行っていたという。
AI技術の進化と倫理的課題
生成AI技術の急速な進化により、故人の映像を再現するハードルはかつてないほど低くなっている。一方で、倫理的な問題や同意のない肖像権の使用についての議論が深まっている。業界団体や法律家の間では、故人の肖像権をどのように保護すべきか、AI技術の規制をどのように行うべきかが模索されている。
キルマーのケースは、AI技術がもたらす恩恵とリスクを象徴する事例となった。今後、ハリウッドにおけるAIの活用はますます拡大すると見られており、その行方が注目される。