UL SolutionsのCEO、Jennifer Scanlon氏が、私たちの身の回りに当たり前のように存在する「ULマーク」の裏側にある複雑なビジネスと歴史について語った。

ULマークは、家電製品や電子機器に表示される安全認証の象徴だ。このマークは、製品が安全基準を満たしていることを保証するものだが、その背後には1世紀にわたる歴史と、常に変化する技術と規制の対応が存在する。

ULの起源:保険会社が始めた安全テスト

UL(Underwriters Laboratories)は、1894年に設立された。当初は、家庭に電気が普及し始めた時代に、保険会社が電気製品の火災や安全性をテストするための組織としてスタートした。当時、電気製品の安全性は未知の領域であり、ULの役割は非常に重要だった。

「ULは、単なる認証機関ではありません。安全性を追求するための科学的なアプローチと、産業界との協力によって成り立っています」とScanlon氏は語る。

グローバル化するULの役割

設立から100年以上が経過した現在、ULは世界中の製品に関わる安全基準を策定するリーディングカンパニーへと成長した。特に、電子機器の製造拠点である中国には、多くのUL認証ラボが設置されている。しかし、このグローバルな展開が、近年では政治的な問題とも密接に関わるようになっている。

AI時代の新たな安全基準:UL 3115

テクノロジーの進化に伴い、ULは新たな挑戦に直面している。その一つが、AIシステムの安全性評価だ。ULは2023年、AI製品の安全性を評価するための新たな基準「UL 3115」を発表した。この基準は、AI製品が開発前から運用後まで一貫して安全であることを保証するための枠組みを提供する。

「AI技術は急速に進化しています。しかし、その安全性をどのように評価し、保証するのかという課題は、まだ多くの議論が必要な分野です」とScanlon氏は指摘する。

中国市場との関係:政治的な壁

ULのグローバルな展開は、時に政治的な摩擦を引き起こすこともある。特に、米中関係の緊張が高まる中、ULの中国拠点が安全保障上の脅威と見なされるケースが増えている。例えば、バイデン政権下でULは、IoT(モノのインターネット)機器の安全基準を策定するリーダー的役割を担うことが期待された。しかし、トランプ政権への移行に伴い、この計画は頓挫した。

「安全基準の策定は、技術的な課題だけでなく、政治的な要因にも影響を受けます。私たちは、科学的な根拠に基づいた判断を重視していますが、時にはその判断が政治的な圧力によって覆されることもあります」とScanlon氏は説明する。

実験室の裏側:安全テストの現場

ULの業務で最も興味深い側面の一つが、安全テストの実験室だ。Scanlon氏によると、多くの製品がテスト中に爆発や発火を起こすという。そのため、彼女のオフィスは時折、実験の振動で揺れることもあるという。

「安全テストは、時に壊滅的な結果をもたらすことがあります。しかし、その失敗からこそ、より安全な製品を開発するための貴重なデータが得られます」とScanlon氏は語る。

今後の展望:安全性とイノベーションの両立

ULは今後も、安全性とイノベーションの両立を目指す。特に、AIやIoTといった新興技術の分野では、従来の安全基準では対応できない課題が山積している。そのため、ULは産業界や規制当局と協力し、新たな基準の策定に取り組んでいる。

「私たちの目標は、消費者に安全な製品を提供することです。そのためには、常に最新の技術動向を把握し、それに応じた基準を策定することが不可欠です」とScanlon氏は強調する。

まとめ:見えないところで支える安全の仕組み

ULマークは、私たちの身の回りにある製品の安全性を保証する重要なシンボルだ。しかし、その裏側には1世紀にわたる歴史、技術の進化、そして政治的な課題が複雑に絡み合っている。Scanlon氏の言葉を借りれば、ULは「見えないところで支える安全の仕組み」なのだ。

出典: The Verge