テナガザル密輸が過去最高を記録
アジア各地でテナガザルの密輸が深刻化している。保護団体「セーブ・ザ・ギボンズ・アライアンス」によると、2025年には過去10年間で最多となる93頭のテナガザルが押収された。このうち3分の1は2016年から2024年までの9年間に押収された数に相当するという。
インドとマレーシアが密輸の拠点に
国際的な野生生物取引監視団体「TRAFFIC」のデータによれば、過去10年間で33件のテナガザル密輸事件が確認された。このうち26件はインドが目的地または中継地、20件はマレーシアが出発地または中継地となっていた。特に2025年には、マレーシアのクアラルンプール国際空港やタイのスワンナプーム空港、インドの各空港で相次いで押収事件が発生した。
「かつてはインド産の動物が東南アジアに流れていたが、現在は状況が逆転しつつある」とTRAFFICのカンティサ・クリシュナサミ氏は指摘する。テナガザルは主にインドネシアから密輸され、インド市場へと流れているという。
「歌うサル」の悲劇
テナガザルはアジア11カ国に生息する小型類人猿で、その名の通り美しい「歌」で知られる。しかし、密輸の実態は過酷だ。空港での押収現場では、荷物に詰め込まれた幼体のテナガザルが衰弱したり死亡したりするケースが後を絶たない。専門家は「これほど組織的な犯罪はかつてなかった」と警告する。
オックスフォード・ブルックス大学の霊長類保全学上級講師で同アライアンスメンバーのスーザン・チェイン博士は「密輸の背後には巨大な組織が存在する」と語る。2025年には1ヶ月に3~4件の押収事件が発生する月もあったという。
生息地の森林が静寂に包まれる
テナガザルの密輸激化は、生息地の森林環境にも深刻な影響を及ぼしている。専門家らは「このままではテナガザルの「歌」が森から消え去る日が来るかもしれない」と危機感を募らせる。
「テナガザルの密輸は単なる動物の違法取引ではなく、生態系全体の崩壊につながる深刻な問題だ」
カンティサ・クリシュナサミ(TRAFFIC東南アジア地域ディレクター)
過去10年の押収データが示す深刻な現実
TRAFFICの報告書によると、過去10年間(2016~2025年)のテナガザル押収数は計280頭に上る。このうちインドネシアが最多の112件を記録し、次いでマレーシア(62件)、インド(58件)が続く。特に2025年の押収数93頭は、2016年から2024年までの9年間の総数の3分の1に相当する。
専門家らは、密輸の背景に「ペット需要の高まり」や「伝統医療目的の取引」があると指摘。その一方で、取締り強化による押収件数の増加も示唆している。
今後の対策と課題
テナガザルの保護には国際的な連携が不可欠だ。専門家らは「空港や港湾での監視強化」「密輸ルートの解明」「現地住民への啓発活動」の3つの柱で取り組む必要があると訴える。
「テナガザルはアジアの生物多様性の象徴。彼らの「歌」を守るために、今すぐ行動を起こさなければならない」とチェイン博士は強調した。