ニューヨークで注目を集める英国発の一人芝居
英国の演劇界で絶賛された一人芝居「ケンレックス」が、ニューヨークのルーシル・ローテル劇場で開幕した。ロンドンで複数回の上演を重ねた後、米国初演となるこの作品は、実在の犯罪者ケン・レックス・ミズーリ州の小さな町スキッドモアを恐怖に陥れた男の物語を、英国流の視点で描き出す。
主演のジャック・ホールドンは、20人以上のキャラクターを一人で演じ分け、ステージ上でジョン・パトリック・エリオットによる音楽演奏と共に、観客を圧倒的な世界へと引き込む。特に、米国中西部特有の訛りを再現した演技は、観客に強烈なリアリティを与える。
米国中西部の訛りとリアリティの追求
ホールドンの演技は、米国中西部の訛りを巧みに操り、スキッドモアの住民たちの声を再現する。彼の演技は、ケン・レックス・マクエルロイという実在の犯罪者の恐怖を、観客に鮮明に伝える。マクエルロイは1981年に住民によって射殺されたが、その事件は未だに解決していない。
作品は、カンザスシティから派遣された検事の視点から始まる。検事はカンザスシティ出身で訛りがないが、スキッドモアの住民たちは、ケンタッキー出身のロレッタ・リンのような訛りで話す。この訛りは、英国人にとっては魅力的に聞こえるかもしれないが、米国中西部出身の観客にとっては、2時間15分の上演中に少し耳障りに感じられることもある。
舞台演出とホールドンの圧倒的な演技力
エド・スタンボルジャンの演出のもと、ホールドンはドアや階段、マイクなどのセットを自ら動かしながら、20人以上のキャラクターを演じ分ける。特に、トラックのヘッドライトを模した照明(照明デザイン:ジョシュア・ファロ)が、乾氷の演出と共に暴力的なシーンを浮かび上がらせる。
ホールドンの演技は、英国の演劇賞「オリヴィエ賞」で2026年度の最優秀男優賞を受賞したほど高く評価されている。同賞では、ブライアン・クランストンやショーン・ヘイズらを抑えての受賞となった。
一人芝居の新たな可能性
「ケンレックス」は、従来の一人芝居とは一線を画す作品だ。従来の一人芝居では、1〜2人のキャラクターを演じるのが一般的だったが、ホールドンは20人以上のキャラクターを演じ分け、セットの移動や音楽の演奏までこなす。このような多様な要素が組み合わさることで、観客は圧倒的な没入感を得ることができる。
一方で、ホールドンの演技は、時として「技巧的すぎる」と感じられることもある。例えば、アンドリュー・スコットの「ヴァーニャ」やサラ・スヌークの「ドリアン・グレイの肖像」など、近年の一人芝居では、俳優の体力的な負担が大きいことが指摘されている。しかし、ホールドンの演技は、そのような負担を感じさせないほどの迫力とリアリティを持っている。
「ケンレックス」は、英国流の視点で米国の暗部を描き出すと同時に、一人芝居の新たな可能性を切り開く作品だ。