米ニューヨークを拠点とする調査報道メディア「プロパブリカ」の記者ロバート・ファチュルチ氏は、自身の身分を悪用した詐欺行為に直面した。きっかけは、カナダ軍を名乗る人物からの突然の電話だった。

「見知らぬ番号からカナダの市外局番で電話がかかってきた。受話器の向こうからは、冷静な声が聞こえた。カナダ軍の関係者だと名乗り、『最近、あなたがウクライナ情勢に関する情報を求めて私に連絡を取ろうとしたか』と尋ねた」とファチュルチ氏は振り返る。

ファチュルチ氏はカナダ軍との接点がなかったため、すぐに「自分ではない」と否定したが、そこで新たな疑問が生じた。誰が「偽の自分」を演じているのか。単に名前だけを使っているのか、それとも写真まで無断使用しているのか。さらには、その警告自体が偽物ではないかという懸念も頭をよぎった。

カナダ軍を名乗る人物は、自身の正当性を証明するために政府のメールアドレスからメッセージを送り、偽者とのやり取りのスクリーンショットを提示した。ファチュルチ氏はその内容を確認し、フロリダの電話番号からプロパブリカの公式写真をプロフィール画像として使用したアカウントが存在することを突き止めた。「ロバート・ファチュルチ(プロパブリカ)です。至急連絡が必要です」というメッセージが記録されていた。なお、ファチュルチ氏はフロリダ在住経験がなく、ウクライナ情勢とも直接の関係はなかった。

カナダ軍関係者は、自身の業務内容(他国との関係を含む、ウクライナ情勢への関与)について詳細な発言を控えるよう求めたが、ファチュルチ氏はプロパブリカのセキュリティチームに報告した。チームは「偽アカウントをWhatsAppに報告する以外、対抗手段はほとんどない」と回答した。

その後、再び同様の事例が発覚した。今回はラトビアの実業家からの連絡だった。ラトビア人ビジネスマンは、ウクライナ軍への装備提供団体を運営し、同国軍とドローン開発プロジェクトに関与していると語った。LinkedIn上でファチュルチ氏にメッセージを送り、「Signalで話したことがあるか」と尋ねた。しかし、ファチュルチ氏はSignalを通じたやり取りは一切行っていなかった。

ラトビア人ビジネスマンは、Signal上でファチュルチ氏の写真を無断で使用したアカウントが存在することを報告した。その偽アカウントは「無人航空機(UAV)の専門家か」と尋ね、ウクライナにおけるUAVの活用に関心を示していたという。ラトビア人ビジネスマンは電話での話し合いを提案したが、偽者は応じなかった。

「偽の記者を装った人物は、ウクライナ情勢に関する情報収集を目的として、実在の記者の写真や名前を無断で使用していた可能性が高い。この手法は、信頼を悪用したサイバー犯罪の一形態であり、特に紛争地帯における情報操作のリスクを高める」と専門家は指摘する。

ファチュルチ氏は、自身の身分を悪用した詐欺行為が複数の国で確認されたことから、今後さらなる被害拡大の可能性を懸念している。プロパブリカのセキュリティチームは、引き続き関係機関と連携し、偽アカウントの監視と報告を強化する方針だ。

出典: ProPublica