米司法省は5月27日、元FBI長官ジェームズ・コミー氏を大統領脅迫の容疑で起訴した。容疑は連邦法違反の「大統領への脅迫」と「州際・国際通商を介した脅迫の伝達」の2件。司法省によると、コミー氏は2025年5月にインスタグラムに投稿した海の貝殻で「86 47」と並べた写真が、ドナルド・トランプ大統領(第47代)への脅迫にあたるという。
しかし、専門家らはこの起訴を「根拠薄弱」と批判。表現の自由の侵害にあたる可能性が高いと指摘する。UCLAロースクールのユージン・ヴォロフ教授は「この訴追は不当であり、却下されるだろう」と述べた。また、米国の表現の自由団体「Foundation for Individual Rights and Expression(FIRE)」は「海の貝殻の写真が大統領への具体的な暴力の意図を示すとは考えられない」と主張している。
「86」は1930年代の米国でカウンターから客を追い出す際に使われたスラングで、一般的には「排除する」「追い出す」を意味する。Merriam-Webster辞典によれば、暴力的なニュアンスを含む場合もあるが、最近の使用例が少ないため、暴力を示唆する定義は掲載されていない。実際、トランプ前大統領の支持者らも同様の表現を政治的敵対者に対して使用してきたが、同様の対応は取られていない。
コミー氏は投稿を削除し、「一部の人々がその数字を暴力と関連付けていることに気付かなかった」と謝罪。また、シークレットサービスによる事情聴取に応じた。その後の報道によれば、コミー氏がノースカロライナ州の海岸で撮影した写真を投稿した後、帰宅時に当局が尾行・監視していたという。
政治的報復の疑い
コミー氏は2017年にトランプ前大統領によってFBI長官を解任されて以来、トランプ氏から激しい非難を受けてきた。今回の起訴は、トランプ氏の長年の敵対心の表れであるとの見方が強い。FBIのカシュ・パテル長官は「過去9~11ヶ月にわたり海の貝殻の写真に関する捜査を進めてきた」と述べたが、その正当性には疑問が呈されている。
ヴォロフ教授は「Counterman v. Colorado(2023年)の最高裁判決により、脅迫とみなされる発言には『被告がその発言が暴力と受け取られる可能性を認識していた』という要件が必要とされた。海の貝殻の写真がその基準を満たすとは考えにくい」と指摘する。FIREも「この写真が大統領への具体的な暴力の意図を示すとは信じがたい」と主張している。
表現の自由と司法の公正さ
専門家らは、今回の起訴が表現の自由を侵害するだけでなく、司法の公正さにも疑問を投げかけると懸念する。政治的立場を理由とした報復的な訴追であるとすれば、米国の法の下の平等原則に反する可能性がある。
コミー氏の弁護団は、この起訴が「政治的動機に基づくものであり、法的根拠に乏しい」と主張。今後の裁判で争う方針だ。一方、司法省は「法に基づく公正な審理を行う」としているが、その正当性には引き続き議論が予想される。